雨の日の唄

□雨の日の唄91〜120
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雨の日の唄102


「ってことがあったんですよ!! あの悟空がですよっ!!」

 先程親友に電話したときに起こった出来事をそのまま昔馴染みの女に電話で話す。

『ハハハッ、アンタは孫君の実態に気付いてなかったようね』
「へ?」

 親友の実態? あれが?

『あれが孫君の本性よ。アンタはあの夫婦の表面的なところしか見ていなかったのよ』

 彼女は当たり前なことといった風に言った。

「表面的?」
『ええ。チチさんは教育ママで、孫君を叱ってばっかりの恐妻。そう思ってたでしょ?』

 ……言い辛いけど……。

「……ええ」

『それが大間違いなのよ。あそこの夫婦ってさ、実は意外とラブラブなのよ』
「悟空が死ぬ前はそんな風に見えなかったけど……」
『だから表面的なところしか見ていなかったって言うのよ』
「そうなんですかねえ……?」

 普段の親友から考えればそんなことは考えられない。

『よく考えてみなさい。あの雲のような孫君がよ、5年も誰にも連絡取らずにずっとチチさんと暮らしてたのよ?そんなに好きじゃなけりゃすぐにどっか行っちゃってるわよ、アイツは』
「まぁ、そうですけど……」
『しかもあっという間に子供なんか作っちゃって!! どんだけチチさんとの生活に溺れてたか、すぐに想像付くってもんよ』
「そう言われれば……そうかも……」

 確かに。あの自由人である親友が天下一武道会で突然の結婚をしたとき、結婚の意味すら理解していなかった。

 それでも約束だからとお得意の『まいっか』で結婚したものだから、正直なところ、すぐに奥さんに逃げられているんじゃないか、などということも考えなかったこともなく……。

 それがあの天下一武道会のあとに二人で筋斗雲で飛び立って5年、何の音沙汰もなく、再会したときにはもう一児の父親で。

 それも計算上、結婚してすぐに子供が出来ていたのだから、本当に驚いて。


『今までアンタが見てきたことは、あの夫婦のほんの一部ってトコよ。アンタも結婚して一児の父親なんだからわかるでしょ?』

 そうだ。自分も妻と一緒になって娘も授かった。だからこそわかる。昔、結婚に抱いていた甘い理想はただの幻想だったということも。

 だからと言って幸せじゃないわけじゃない。幸せだ。もの凄く。

 だけど誰かと一緒に暮らすということは苦労もある。自分だけでいることの方が楽なことも。

 それでも誰かと共に生きることを選ぶ。苦労がたくさんあっても、愛する誰かと共に生きたいと思う。

 親友も同じなんだと思った。

 いつも何事にもとらわれない風のような親友が、誰かと共にあろうとした。生きようとした。彼女との生活を大事にしてきた。

 親友がどんな騒動に巻き込まれようと彼女は親友の妻であろうとしたし、親友も何度死んでも彼女の元に戻った。

 それだけで充分じゃないか。それだけであの夫婦が共にあることが幸せだということがわかるではないか。

 やはり、共に生きるべき相手が出来るということはいろんな認識が変わる。
 昔の自分なら、きっと親友が彼女と生きることがどれだけ幸せなことなのか理解できなかったかも知れない。

 ただかわいい彼女が欲しいと思っていた。早々に結婚した親友が羨ましいと思っていた。

 でも今思えば本当はなんだかんだ言っても幸せそうに飛び立った二人が羨ましかったのかも知れない。

 恐妻のイメージがある親友の妻だけど、よくよく考えればあの破天荒な親友に文句を言いながらもずっと付き従い、最後には親友のやることを全て許容する良き妻なのだ。

 そんな彼女を親友が何よりも大事に思うことは不思議なことではないのかも知れない。

「……やっぱり、ちゃんと見てなかったのかな」
『ま、そういうことよ』

 夫となってわかること。

 夫婦とは傍目には見えないこともある。

 亭主関白のようで実は妻がそう思わせているだとか、尻に敷かれているようで、根底では夫に頼っているだとか。

 いろいろあるのが夫婦というもの。

 それを改めて思い知らされたように思った。


 end
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