雨の日の唄
□雨の日の唄91〜120
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雨の日の唄110
「よく考えるとさあ、お前よりオレの方が悟飯さんと付き合い長いんだよな」
「なんで?」
浮き輪で浮かびながら悟天はオレの方に振り返った。
「だってさ、オレが悟飯さんに初めて会ったときって、人造人間ってのが襲ってくる日だったんだってママに聞いたんだけどさ」
「うん」
「そんときお前まだ生まれてなかったんだって」
「え? そうなの?」
「うん。だからオレの方が悟飯さんとの付き合いが長いってわけ」
これはちょっとした意地悪だ。
正直なところ大人気ない意地悪だと思うけど、いつも悟飯さんと一緒で羨ましいって思う。
オレだって兄弟が欲しい。
特に兄ちゃんって憧れる。
きっと昔から悟飯さんに遊んで貰ってたからだからだと思うけど。
物心ついたときからオレと悟天は悟飯さんに遊んで貰っていた。
オレと悟天は1歳しか違わない。でも悟飯さんって9歳も違うんだ。
時々悟飯さんが僕の赤ちゃんの頃のこととか言うんだけど、そういうときってこそばゆいのに何だか嬉しくもなる。
すごく恥かしいのに嬉しいなんて、なんだか不思議な気分で。
きっと悟飯さんのこと、本当の兄のように思ってしまってるんだと思う。
だから、本当に大人気ないとは思うんだけど、それでもちょっとだけだけど、いつも悟飯さんと一緒の悟天が羨ましくて、つい意地悪したくなるときがある。
どんなに三人で遊んでたってやっぱり感じてしまう。自分だけ違うんだってこと。
やっぱり二人は兄弟なんだ。見た目が似ているっていうのもあるけれど、いろんなところに兄弟なんだなって思わされるところがある。
少し天然なところとか。何だかわからないけど、こう基本的なところというか……。まあベースが同じだからだけど。
疎外感っていうものを感じることがある。二人は決してそんなことをしないんだけど。
結局自分の気持ちの問題なんだろうけど。
「ふ〜ん、そうなんだ」
悟天は何事もなかったかのように、水にプカプカと気持ち良さそうに浮いている。
「お前が生まれる前にいっぱい悟飯さんに遊んで貰ったんだぞ?」
「よかったよね。兄ちゃん優しいからいっぱい遊んでくれたでしょ?」
「え?あ、ああ……」
ホントはそんな記憶なんてないけど……。
「……てかお前……オレに兄ちゃん取られたとか、思わないの?」
「なんで? 兄ちゃんは兄ちゃんでしょ?兄ちゃんとトランクスくんが仲良くするのは嬉しいもん。ぼく、兄ちゃんもトランクスくんも大好きだから、みんなで仲良くするのは嬉しいよ」
キョトンとして悟天は言った。
でもすぐにちょっと不安げな顔になって言った。
「トランクスくんはぼくの一番のお友達だけど、トランクスくんの一番のお友達は兄ちゃんなの?」
オレは思わず目を瞠った。
「い、いや……一番の友達は悟天だよ」
「ホント? よかった!! なんかね、今ちょっと変な気分になったの。兄ちゃんの方がトランクスくんが仲いいの、すっごい嬉しいんだけど、トランクスくんがぼくより兄ちゃんといっぱい遊んでるのかな?って思ったらね、ちょっとだけ悔しくなったの」
『トランクスくんがぼくより兄ちゃんと……』
無邪気に笑う悟天になんだか鼻の奥がつんとした。
オレは悟天が羨ましくてちょっと意地悪したくなったのに、こんなオレのこと、一番の友達だって喜んでくれる。
すごく嬉しくなった。それでも素直じゃない自分が出てきてしまう。
「えー悟天が一番なのかぁ〜つまんないの」
本当は嬉しいんだけど、つい誤魔化してしまった。
「なんでだよー!?」
そんなオレをプウっと頬を膨らませて悟天は睨みつけてくる。
「だって悟天、オレより弱いじゃん?」
「そんなことないもんっ!! ぼく今おとうさんに修行してもらってるもんねっ!!」
からかいながら言うと悟天はむきになって返してくる。それがちょっとおもしろいから、いつもついからかってしまう。
「仕方がないからなぁー、オレが悟天の一番の友達でいてやるよ」
「なんだよトランクスくん、ホントはぼくが一番のお友達ってことうれしいくせにっ!! 素直じゃないんだからっ!!」
「うるさいよっ!!」
そう言って水をかけると悟天も水をかけてきた。
「やったなっ!!」
「ヘヘッ!! 負けないもんねっ!!」
二人して夢中で水をかけ合う。
素直に楽しい。悟天といることは本当に楽しいんだ。
悟天て無邪気でいつまでも子供で(子供だけど)、それでもって素直なヤツだ。
純粋で、好きなものは好きだって言える。
そういう素直なところは羨ましいって思う。
正直、オレってちょっと素直じゃないっていうか……自分でも認めちゃうけど……。
でもこんなオレのことをちゃんとわかってくれてる友達なんだ。
悟天が友達で、本当によかった。
end