雨の日の唄
□雨の日の唄91〜120
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雨の日の唄111
悟天と水をかけ合いながら、前にママに言われたことを思い出した。
リビングでテレビを観ていると、ソファーで雑誌を読んでいたママが何の脈絡もなく思いついたように口を開いた。
『アンタって、ホントベジータの子よね』
なに、急に?と問うと、
『見た目もね、ベジータの子ってカンジだけどね、時々素直じゃないようで素直なところがそっくり!!』
なんて言いながら嬉しそうなママ。
『なにそれ? 意味わかんないんだけど』
『わかんない? 例えばね……』
ママ突然抱き締めてきた。
『何すんのさっ!?』
オレはママの腕の中でジタバタともがいた。
『久しぶりにママに抱き締めて貰えて嬉しいでしょ?』
『嬉しくないよっ!!』
『あら?素直じゃないわねえ〜』
『もうっ!! 離してってば!! ちょっとくすぐったいって!!』
ママは抱き締める力を強めた上、頬擦りまでしてきた。
『だってさ、そういうところがベジータの子なんだって思ったらね、余計にかわいくって!!』
『意味わかんないって!! もう離してよっ!!』
そう訴えるとママは離してくれたけど、オレの顔を覗き込んで言った。
『そんな真っ赤な顔して言っても説得力ないわよ。ホント素直なんだか素直じゃないんだか』
『意味わかんないよ、それっ!?』
『あら?素直じゃないって言うのはね、本当とは逆のことを言ってるってバレバレだってことよ』
思わず『あ!!』と声を出してしまった。するとママはニヤっとした顔をした。
本当はちょっとだけだけど嬉しかった。でも恥しいって気持ちが先行して……。
あのとき、きっとオレの顔は真っ赤だったに違いない。
するとママは嬉しそうな顔で、
『ベジータもそうなのよ。素直じゃないの。バレバレなのにね、絶対に違うって言うでしょ? かわいいったらありゃしない』
そうケラケラと笑った。
そのとき知った。というより今更ながらに気が付いた。
素直じゃないってことは嘘がバレてるってことなんだよな……。
本当はこうして欲しい、こうしたいって思ってるのに真逆のことを言ってしまう。
『素直じゃない』
そう表現されるってことは全部バレてるってことで。
しかもそれは『かわいい』の部類に入れてしまうママ。それがパパであっても。
いや、パパだからなのか。
特にパパのようないつもしかめっ面をしている人が素直じゃないのは余計にかわいいらしいけど、それってママにとってはパパだからじゃないのかな?
まあ素直なパパってのは余計に気持ち悪い……じゃなくて怖いけど……。
でもあのパパをかわいいと言えるのは本当にママだけだよな。
『悟天みたいなのが素直って言うんだよ。アイツ、ストレートだし』
『まあそうだけどね。でもね、バレてるのに必死で嘘吐くってのもね、ある意味素直でもあるのよ』
『何でだよ?』
『だってね、隠せないんだもん。素直じゃないってのは、見る人が見れば素直なわけ?わかる?』
『……よくわかんないんだけど……?』
『う〜ん、トランクスにはまだ早いか。てか、私までわかんなくなっちゃったわよ』
そんなことを言いながらも嬉しそうに笑うママにオレは呆気にとられたけど、それでもそんな風に笑うママを見ていると、何故だか自分まで嬉しくなった。
『だからね、これが素直じゃないようで素直ってことなのよ』
ママはそう言ってまたオレを抱き締めた。
オレも今度は抵抗しなかった。
『素直じゃない』
そう言われることがそんなにも嫌じゃなくなった。
だって見ていてくれる人がいて、それをちゃんとわかってくれてるってことで。
だからかな?パパがママにそう言われてもそんなに嫌そうに見えないのは。
オレもママや悟天にそう言われるのは嫌じゃない。どっちかって言うとちゃんと見ててくれるんだって思えて、ちょっとだけだけど嬉しかったり……。
素直になるのもいいけど、素直じゃないってバレバレなのもいいなって思う。
オレはやっぱりママがママでよかったし、パパがパパでよかった。
それと、悟天が一番の友達でよかった。
end