雨の日の唄
□雨の日の唄91〜120
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雨の日の唄114
悟飯君は今までほとんど友達と呼べる人がいなかった。
そんな話を聞いて心が痛まないはずがない。
私は都会育ちで、パパがあの調子だからまわりにはいつもたくさんの人がいた。
パパの弟子って人もたくさんいたし、友達もそれなりにいた。
でも今思えば、有名人の子供だってことで傍に寄ってきた打算的な子もいたけれど。
それでもイレーザみたいに私が誰の子だって関係ないって態度で接してくれる子もたまにはいて。
そう思うと随分と恵まれていたように思う。
パパが倒したと思っていたセルを倒したのが本当は悟飯君だと知ったときは驚きだった。
あの頃の悟飯君はまだ子供で、なのに大人と一緒に命をかけて戦って……。
それまでも随分鍛えたんだろうなって思う。
「ねえ悟飯君。夕べ荒野で一人っきりって……」
夕べ言っていたことを思い出した。荒野で一人っきりで生活してたって言っていたけど……。
「ああ。僕が4歳のときなんですけど、お父さんがお父さんの兄ってサイヤ人に殺されちゃって、ベジータさんたちサイヤ人が襲って来るまでにお父さんの血を引く僕を鍛えるのにピッコロさんが僕に独りで生き抜けって」
ハハハと笑いながら言ってるけど……。
「……悟飯君……笑いながら言うことじゃないと思うけど……」
「そうですか?」
天然よね……悟飯君ってホント、天然よね……。
でも……。
「4歳の子供が荒野に一人っきりって……大変だったでしょ……?」
「そうですね……最初は大変でした。僕、弱虫で泣き虫だったから」
顔を少し赤らめて照れくさそうに悟飯君は笑った。
「悟飯君が? 弱虫で泣き虫?」
「ええ。もうすぐに泣いちゃうような泣き虫でした。もちろん武道なんてやってなくて」
「まあ……4歳だもんね……でも悟飯君だったら小さい頃からおじさんに鍛えられてたんだと思ってたわ」
これだけ強いんだし。とてもじゃないけど泣き虫の悟飯君なんて想像できなくて。
「ピッコロさんに連れて行かれるまでは武道なんてサッパリでした。お母さんが反対してたから」
「そうなんだ」
「ええ。武道なんて飯の種にもならないってね。お父さんのことは半分諦めてたみたいですけど」
「まあ……そうでしょうね」
悟飯君は困ったように笑っている。
それでも悟飯君がお父さんのことを本当に誇りに思って尊敬していることはわかる。
「悟飯君って、お父さんのこと大好きでしょ?」
「え?」
悟飯君は驚いたように目を見開き。顔を赤らめた。
「わかるわよ、それくらい」
クスクスと笑うと、悟飯君は照れたような顔で、
「そうですか?」
と言った。
思わずパパのことを思い出す。パパは武道家でお金持ちだけど、パパの場合はおじさんと違うタイプだし。
おじさんはちょっと接しただけだけど、ただ強さを求める人なんだって何となくわかるし。
パパの場合は認めたくないけど……自己顕示欲の塊って感じかしら?
私だってパパは本当に強くてすごい人だって思ってたけど、こうも次元の違う人たちを目の当たりにしちゃうと……。
まあこの人たちが常人レベルじゃなくってパパが常人の中ではかなり強いんだって思えばいいのかしら?
それでも、本当に地球の存亡をかけて戦っていた人たちとは違う。
「でもビーデルさんもサタンさんのこと大好きでしょ?」
悟飯君の顔はニッコリと微笑んでいて、何だか全ての毒気を抜かれるようなそんな顔で。
だからかな? ほんの少しだけど素直になれる。
「……そうね……大好きだわ」
どんなにみっともないところを見せられても、どんなに嘘つきでも、私はパパのことを嫌いになるなんてこと出来やしない。
きっと。何があったって。
パパは一生私のパパだわ。
end