雨の日の唄
□雨の日の唄91〜120
26ページ/31ページ
雨の日の唄 115
昼食の後、悟天とトランクスは木に吊るしたハンモックで昼寝。
ビーデルさんも後片付けをしたあと、気が付けば二人のハンモックの傍の木にもたれかかってウトウトしていた。
僕は三人が見える少し離れた木陰に腰を下ろし、先程閉じた参考書を開く。
「さてと……どこまでやったっけ?」
ノートにペンを走らせ、問題を解いていく。一つ問題が解ける度に何とも言えない達成感。
「うーんっ」
何問か解いて身体を思いっきり伸ばすと、木々の隙間から青い空が見えた。
ここはこんなにもいい天気だけど、外はまだ雨なんだろうか?
ここに入って2日。
パオズ山の自宅を出るときは小雨が降っていた。
学校に着いても雨で、出るときも雨。
トランクスと遊ぶからと家を出た悟天を迎えにカプセルコープレーションへビーデルさんを伴って来たときも雨。
それから、ここに入ったときも雨だった。
シトシトとした雨だけど、それでもそんなにも不快な雨ではなくて。
昔からこんな雨の日が結構好きだった。
晴れた日も好きだけど、こんな雨の日はお父さんが家にいることが多かった。
お父さんは家の中で出来る運動をして、お母さんに『埃が立つ』とよく怒られて、苦笑いをして頭を掻きながら『すまねえ』って言っていたけど、それでもお母さんは何だか嬉しそうにしていたし、お父さんと一緒に昼寝をしたりして、のんびりとした空気がとても好きだった。
「そう言えばお父さん、何しに来たのかな?」
今朝お父さんがここに来たみたいだったけど。でもすぐに帰ったみたいだ。
しかも悟天が気が付くほどに気を乱していたのは……気のせいではないようだけど……。
またお母さんを怒らせたのかなぁ? それで逃げてきたのかなぁ?
ホント一体何しに来たんだろ? きっと大したことじゃないよ……多分……。
それにしてもこうしてのんびりした時間を過ごしていると、どうしてもこの間の戦いが夢だったような、そんな気分すらしてくる。
「平和だよなぁ……」
つい口をついて出てきた。
例えお父さんがお母さんを怒らせても。
飯抜きを言い渡されても。
お父さんが半泣きになりながらお母さんに許しを請うていても。
本当に平和だと思う。
僕は4歳の頃から戦いに巻き込まれていたけれど、平和な時期だって結構あった。
いや、平和な時間の方が多いのだ。
僕の家(ほとんどお父さん)は常に戦いやら騒動に巻き込まれているように見えるけど、それはほんの一時で、僕たちの生活のほとんどが平和なときだった。
僕が生まれる前も生まれてからの4年間も、僕たち家族は本当にのんびりとした時間を生きていた。
きっと、武天老師様のところに行ったあの日がなければ、僕は今でも武術を知らずに生きていただろうというくらいに。
お父さんが宇宙から帰ってくる前も帰ってきてからの3年間も、修行に費やしていたとは言え、本当に平和な時間だった。
僕もお父さんとピッコロさんと一緒に修行が出来て楽しかったし、時々家族三人で買い物に行ったりして楽しかった。
お父さんが死んで悟天が生まれて、この間の戦いまでは本当に平和だった。
だから、戦いや騒動というものはほんの一時の出来事でしかない。
本当は僕の家も、他の家と同じように、平和で平々凡々な家庭なんだ。
そんなことを考えながら、ぼんやりと三人が眠る方向を眺める。
本当に平和だ。
僕は一つ微笑み、再び参考書へと視線を落とした。
end