雨の日の唄
□雨の日の唄91〜120
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雨の日の唄117
子供たちがカプセルに入ってもう二日だ。
もう夕刻だから中で夕食の準備が始まってることだろう。
先程入口に今日のバーベキューの材料を置いておいた。サイヤ人二世三人の食欲を満たす為に悪戦苦闘してるであろうあの少女の姿を想像したら何だか笑いが込み上げた。
初めて孫君の食欲を見たときは面食らった。
あの小さい身体のどこにあれだけの量が食物が消費されるのだろうか?と思ったものだが、慣れると相変わらずだな、という感想しか出なくなっていた。
孫君とチチさんが結婚したとき、アイツに結婚生活が送れるのだろうか?という心配と同時に、彼女にあの食欲魔人の食欲を満たすことが出来るのだろうか?という懸念もあった。
しかしながらそれも彼女はやってのけた。
毎日彼が満足するような食事を用意し、彼が立派とは言えないけれど夫として、父親として生きてこられたのは間違いなく彼女のお陰で。
悟飯君に対して過保護で教育ママなところも最初は辟易していたが、ベジータの子供を身籠ってからは彼女の気持ちがわかったし、同じものを共有する同志だと思えるようにもなって。
本当に尊敬できる人だと思う。
そして今カプセルの中にいるあの少女は、孫君と飛び立ったあの頃のチチさんに似ている。
悟飯君に恋しているだろうことも、悟飯君もあの少女に惹かれているだろうことも見ていればわかる。
きっとあの少女は、チチさんの苦労を半分背負ってくれる存在になるだろう。
その前に、悟飯君がどこまで根性を出せるか。
『まいっか』で結婚を決めるような彼の父親とは違って、彼は人並みな段取りは踏むだろうし。
あの小さかった尻尾の生えたおぼっちゃまは、今は立派な青年で一端に恋もしていて。
父親のお陰でしなくてもいい苦労も重ねて。
それでも両親を尊敬し、家族を何よりも大事に思っている。
感慨深いものがある。
あの家族にいろんなことがあったと同時に、私たち家族にもいろんなことがあった。
ベジータと出会って、チチさんと同じくサイヤ人の子供を産んで。
辛いこともあったけれど幸せだった。
いえ、今も幸せだ。
ベジータが、トランクスが、家族がここにいることがこんなにも幸せだなんて。
きっとドラゴンボールを探しに出たあの少女の頃にはわからなかった。
でも幸せなんて、存外意外なところにあるのかも知れないし、本当に目に見えるところにあるのかも知れない。
人それぞれある。
だけど、幸せなんて平凡なもので十分なのだ。
庭のカプセルに視線を移し、微笑む。
ま、きっとうまくいくわ。
だから。
しっかりやりなさいよ、青年。
あなたたちはどこにでもあるような、そんな幸せがお似合いだ。
だけどそれはきっと、とても満たされているはずだから。
end