雨の日の唄

□雨の日の唄91〜120
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雨の日の唄119


 夕刻。ふと庭のカプセルの入口に赴いた。

「あの子たち、バーベキューしてるかしらね」

 食欲の塊のようなサイヤ人の子供たちだから肉の取り合いになってることだろう。

 そんなことを思いながらカプセルの入口に着くと、

「あれ?」

 バーベキューの食材がそのまま、そこにあった。

「なんで?」

 もう夕食の時間だ。なのにどうして食材は置いたそのまんまになっているのだろう?

 訝しく思い、カプセルの中に入ってみる。

 時間設定のお陰でテント中は雨がまだ降り続いている外とは違い夕焼けだ。

 夕焼けまで再現するなんてさすが天才の私ね。などと自画自賛しながら子供たちを捜す。

 テントの張ってある場所には人気はない。

 随分前に火を起こした形跡はあるのだが、ちゃんと消してありくすぶってもいない。

「……あの子たち……どこ行ったの?」

 悟飯君がいるから大丈夫だろうけれど……。それでも人の親だ。心配になる。

「……一体……どうしちゃったの?」

 何となく不安になり、辺りを捜す。

 すると、人工池の傍の木にハンモックが二つ吊るされている。

「あら?」

 そこにはトランクスと悟天君。その傍に木にもたれかかっているビーデルちゃん。

 三人ともスヤスヤと眠っている。

「寝ちゃってたの?」

 ホッとしたと同時にクスッと笑みがこぼれる。

 本当に気持ち良さそうで、何だか起こすのが憚れる。

「もう少し、そっとしておこうかしら?……じゃあ悟飯君は?」

 キョロキョロとまわりを見渡すと、向こうの方で参考書を膝に置いたまま眠りこけている。

「あらあら?夕べは眠れなかったのかしら?」

 クスクスと笑いながら悟飯君の傍に近付く。

 きっと緊張して眠れなかったのね。何たって好きな子が傍で寝ているんですもの。

 彼の父親とは違い、普通の感覚を持ち合わせているし思春期なのだ。

 好きな女の子と(コブ付きとは言え)一晩共にするなんて、どれだけ緊張することだろう。

「少しは進展したのかしらねえ〜?」

 寝顔を見ながら問いかける。

 何も答えない彼の寝顔は無防備で、いつも以上に幼く見える。

「これだけ孫君そっくりなんだし寝顔も似てるかな?って思ってたけど、こうして見てみると寝顔はチチさんに似てるかしら?」

 母親の遺伝子が父親の遺伝子に支配されてそうなこの青年の寝顔に見出した母親の面影。

 以前、彼の父親が言っていた。

『寝顔がさ、チチに似てんだよな』

 その嬉しそうな顔を見れば幸せだろうことはわかった。

 今はその気持ちがわかる。

 ハンモックで寝ているトランクスの元まで行き、その寝顔を覗き込む。

「やっぱり似てるのよねえ。ベジータに」

 トランクスは自分とベジータの両方の要素を持ち合わせている。

 だけど、ちょっとしたことでもベジータに似ているところを見つけるだけで、何だか嬉しくなる。

 日増しにベジータに似てくる。

 あの目つきに似るのはちょっと困るけれど、それでも嫌どころか嬉しい気持ちもあったり。

 子供って自分に似るより相手に似る方が嬉しいものだ。

 特に愛してやまない相手だから。

 ムニャムニャと寝返りを打ち、ちっとも起きそうにない息子の頬を突付き、微笑んだ。


 end
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