雨の日の唄
□雨の日の唄91〜120
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雨の日の唄93
カプセルの中だけど心地よい風が吹いている。
悟天君とトランクス君は人口池で遊んでいるし、隣を見れば悟飯君。
……って悟飯君……?
悟飯君は参考書に没頭していた。
「……悟飯君……何してるの……?」
「へ?」
間抜けな声を出して悟飯君は顔を上げた。
「悟飯君……こんなトコに来てまで勉強?」
「あ、は、はい。つい習慣で……」
申し訳なさそうに頭を掻く悟飯君に溜息が出た。
「……ホント、悟飯君って、勉強好きなのね?」
キャンプに来てまで勉強って……私が呆れ顔で言うと、
「ええ。僕には目標がありますし」
嬉々として言った。
「目標? 何なの?」
「……笑いませんか?」
少し項垂れて、恥ずかしそうにそう言う悟飯君がいつもよりかわいく見える。
「笑わないわよ。何なの?」
「……実は……」
一呼吸置いて悟飯君ははっきりと言った。
「僕、学者になりたいんです」
「学者?」
「ええ。子供の頃からの夢なんです」
悟飯君は人工池で泳いでいる悟天君を眩しそうに見ている。
「僕小さい頃からお母さんに『偉い学者になれ』って言われてたんですけどね。そのうち自分の夢になったというか……」
悟飯君の勉強好きはおばさんの影響か。まあおじさんじゃないことだけはわかるけど……。
「お母さんにこんなに大きな辞典を買って貰ってね」
悟飯君は両手で辞典の大きさを作った。
「それでね、その辞書を持ってお父さんに山に連れて行って貰ったんです。たくさんの植物や動物や……パオズ山の大自然に触れて……辞典にも載っていないものがあったりね。でもお父さんが教えてくれて。亡くなったおじいちゃんが教えてくれたんだって」
「へえ〜」
おじさん、結構物知りなんだ……って失礼だけど。
「それで、もっともっといろんなことが知りたい、そう思ったら、お母さんに言われるままじゃなくて自分の夢になっちゃって」
そう言う悟飯君は照れ臭そうで……。
「……お母さんだけじゃなくて、お父さんの影響もあるんだ?」
「そうですね」
悟飯君は嬉しそうにはっきりと言った。
「だから僕は大学に行きたいんです。学者になるためにもっともっと勉強して……絶対に学者になりたいから」
その眼差しはまるで闘っているときの悟飯君のような、とても真剣で、何だかドキドキした。
その途端、顔が熱を発したように熱くなった。
思わず顔を両手で覆う。
「あれ? どうしたんですか? ビーデルさん」
「何でもないっ!! 何でもないのよっ!!」
さっきとは打って変わって間の抜けた声音で訊ねてくる悟飯君の顔を、私はどうしても見ることが出来なかった。
end