雨の日の唄

□雨の日の唄91〜120
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雨の日の唄96


 どうしても叶えたい夢。

 それをビーデルさんの前で口に出したことが自分の決意表明でもあった。

 今まで何度となくその夢を口にしてきた。

 僕も初めてブルマさんたちに会ったときに大きくなったら何になりたいか聞かれたけど、そのときは何の躊躇もなく『学者になる』と答えた。

 あの頃はまだ小さな子供だったから、実のところはっきりそれを口にしたことも覚えていないというか、何となくでしか覚えていないのは、その後の展開が印象に深すぎるからだと思う。

 それから多少大きくなったとき、ブルマさんに『悟飯君、『偉い学者さんになる』って言ったのよ。孫君の子なのに、なんてしっかりした子なのかしらって思ったわよ』と言われて照れた覚えはある。

 僕はかなり小さな頃からその夢を口にしてきた。

 だけどその夢がどうしても叶えたい夢で、そしてどうするべきなのかはっきりと道が見えたのはごく最近のことだ。

 それまでは漠然としていたものが、学校へ通うようになってはっきりと形を成したように思う。

 田舎育ちで、同年代の友達と接することもあまりなく、友達と夢を語り合うなんてことをせずに育った。

 だから学校に通い始めて、初めて同年代の友人の夢というものを知った。
 
 まわりから聞こえる将来への目標。

 はっきりしたものではないけれど、それでも彼らの口からは将来のことが語られる。

『いい会社に入りたい』とか

『タレントになりたい』だとか

『一流の男と結婚して玉の輿に乗る』だとか

 それでも夢には違いない。

 同年代の友人がどんなことを考えているのかわかったようで、とても新鮮だった。

 僕のまわりは大人ばかりだったから、やっぱり何かが違って見えたのは確かで。

 クリリンさんがやたらと『結婚したい』とぼやいていたけれど、それも18号さんと結婚することで叶い、その上マーロンちゃんという娘まで生まれているのだ。

 クリリンさんの場合、少し遅れて叶った夢ではあるけれど、それでも叶えたことには違いないのだから。

 僕の夢も、いつか叶うときが来るのだろうか。

 いや、絶対に来る。

 それを叶えるのは自分自身なのだ。お母さんがその夢を叶えたように……。

 昔とは違い、大きくなってから初めて口にした自分の夢は、口にすることによって更にその思いを強くする。


「僕、絶対に学者になりたいんです」

 僕がそれを再びそれを口にすると、それまで何故かを両手で覆っていたビーデルさんが顔を上げた。

「……うん。私も応援してる」

 ビーデルさんはそう言ってニッコリと笑った。

 僕はその笑顔を見ると胸の奥がくすぐったくなった。

 でも、ビーデルさんにそう言って貰えたことが、僕の頑張る気力になる。


 いつか、学者になれた頃、隣にビーデルさんがいてくれたら……。

 そんなことが頭によぎった。

 その瞬間、顔が異常に熱くなった。

 僕、なんてことを……。

 これって、妄想って言うんじゃないか?

 そう思うと、何だか気恥ずかしくて、ビーデルさんの顔が見れなくなった。


 end
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