雨の日の唄

□雨の日の唄91〜120
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雨の日の唄97


「……ねえ悟飯君。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」

 ビーデルさんが俯きながら遠慮がちに聞いてきた。

「何ですか?」
「あのね……」

 ビーデルさんは顔を上げ、その大きな、気の強そうな瞳を僕に向けてきた。
 その瞳の強さは、まるで僕に戦いを挑んでいるようで、少し気後れした。

「……武道家の女の子って……どう……思う?」
「武道家って……ビーデルさんみたいな?」
「ま……そう……ね」

 何となく言い淀んでいる感じではあるが、それでもビーデルさん首肯した。

「? いいんじゃないですか」
「だって武道家よっ!! 闘ってるのよ? 女の子がよっ!?」

 僕が即答すると、ビーデルさんは食って掛かってきた。

「別に。女の人が闘ってもいいと思うけど」
「だって……女の子よ?」

 ビーデルさん、一体どうしたんだろう?

「僕はいいと思うけど。僕のまわりじゃ珍しいことじゃないし」
「え?」
「18号さんだって闘ってるでしょ? それに僕のお母さんだって元武道家だけど?」
「ええ!?」

 ビーデルさんは酷く驚いている。

「言わなかったっけ?」
「聞いてないけど……」

 ビーデルさんの大きな目が大きく見開いている。

「そうでしたっけ? 言った気になってました。まあとにかく、別に僕は女の人が闘ってもいいと思いますよ」

 別に男とか女とか、僕は気にしないけど。

「……そう?」

「はい。僕、闘ってるビーデルさんかっこいいと思いますよ。何て言うか……動きのひとつひとつがまるでダンスのようで、とってもキレイなんです。流れるような動作って言うんですかね? 時々見とれちゃいますよ、僕」

 女の人には僕ら男にはない柔らかさがあって、形ひとつ取っても、とても優雅だ。
 細い手足がピンと伸びる様子など、本当にキレイで、男には出せない自然な流れだと思う。
 
 ビーデルさんの闘う姿は本当にキレイだ。本当に時々見惚れてしまうくらい。

 そういやお父さんが言ってたっけ?
『ケッコンしたばっかの頃、母さんと組み手したときさ、母さんの動きがあんまりキレイだから、思わず動き止めそうになったことあっぞ』って。

 お父さんもそうだったのか……。やっぱり親子だなって思うくらい、時々同じことを考えている。

 でもビーデルさんが怪我するようなことだけはさせたくないって思う。

 正義のためでもあるけど、ビーデルさんにあんまり無茶させたくないからグレートサイヤマンをやっているんだから。

 ふと、視線をビーデルさんに向けると、ビーデルさんがまた顔を覆っている。

「? どうしたんですか?」
「なっ……」
 
 顔を上げたビーデルさんは真っ赤な顔で口をパクパクさせている。

「っ、て……天然っ!!」
「へ? 何で?」

 ビーデルさんは真っ赤な顔で僕を睨みつけている。

 何で?

 僕がビーデルさんの言った意味を理解するのは、もう少しだけ先。


 end
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