雨の日の唄

□雨の日の唄121〜
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雨の日の唄122


「ちょっと、ちょっと悟飯君っ!!」
 
 とりあえずスヤスヤと寝ている悟飯君に、小声で声をかける。

「う〜ん……」

 悟飯君は少し身じろぎをしただけで起きそうにない。

「ちょっと、悟飯君、起きなさいってば」

 小声じゃ駄目らしい。

 頬をつねってみるが、

「……もう食べられないよ……」

 むにゃむにゃと何だか幸せそうで。

「……何の夢見てんのよ……」

 食べ物の夢でも見てるってことはすぐにわかる。

 というか、サイヤ人ってそれしかないのかしら? 戦ってるか身体を鍛えるか食べることしかないのかしら?

 思わず大きな溜息が出る。

「夢でも食べてるって……」

 そう呟いた途端、

 グウ〜

 思わず他の子供たちを起こしてしまうのではないかと思うほど、とんでもなく大きなお腹の音。

「ん?何の音?」
 
 自分が発したその音に反応したのか、悟飯君がその黒目をぱちりと開け、目を覚ました。

「……自分のお腹の音で目を覚ますって……どうなの?」

 半眼で呆れながら言うと、悟飯君は何事かわからないように、キョトンとした顔をした。

「おはよ」
「……おはよう……ございます?……なんで……ブルマさんがいるんです?」
「ここ、どこかわかってる?」
「どこって……あれ?うち……じゃなくて……あ!!」
「寝ぼけてたのね」
「……はい」

 目を伏せ、恥かしそうに照れ笑いをする。

 こんな顔、孫君はなかなかしないわよって思ったが、チチさんのことになるとそんな顔をするだろうということは何となくだけどわかる。

「それにしても、今まで寝言で『もう食べられない』とか言っておきながら、自分のお腹の音で目を覚ますなんてねえ〜さすがねえ〜」

 意地悪な言い方で言ってやると、

「……お父さんも……悟天も……同じこと……」

 悟飯君は真っ赤な顔で、上目遣いで小声で呟いた。 

「自分のお腹の音で起きちゃうって?」
「……はい」

 本当に恥かしそうに俯いている。
 
 そんな姿につい笑いが込み上げる。

「な、なんですか?」

 拗ねたような顔で悟飯君は言った。

 こんな顔も孫君はしなかったな、と思う。

「ゴメンゴメン。一緒だなって思って」

 恥かしそうな悟飯君に謝罪するも、笑いながらだから何の説得力もない。

「一緒?」
 
 でも悟飯君は『一緒』という言葉に食いついた。

「ええ。ベジータもトランクスもね、同じことしたことあるから」

 ベジータもトランクスも、実は自分のお腹の音で目を覚ますこともあったりする。

 そのときのキョトンとした顔は親子で同じだったりするからまた可愛い。

「やっぱりサイヤ人。一緒ね一緒」
「……」

 笑いながら言うと、悟飯君は更に顔を赤らめた。


 何だかんだ言ってもベジータと孫君は同じ人種で、トランクスと悟飯君、悟天君兄弟はそのサイヤ人と地球人の混血なのだ。

 たった二人しかいない種族の子を、私とチチさんは産んだのだ。

 今更ながら不思議な縁を感じる。

 こんなにも広い宇宙で、たった二人になってしまった種族。

 そして、そんな彼らに出会い、それぞれの子を産んだ私たち。

 天文学的数字の確率で、私たちは今こうしているのだろう。

 でもきっとそれは偶然ではなく必然なのだと信じられる。

 そんなことを思っている私の顔を悟飯君は怪訝そうに見ている。

「どうかしたんですか?」
「何でもないわよ、青少年」

 クスクスと笑っている私を、悟飯君は不思議そうな顔で見ていた。


 end
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