雨の日の唄

□雨の日の唄121〜
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雨の日の唄123


 ブルマさんの開発したカプセル型キャンプ場の中でキャンプをしていた『はず』の僕と悟天とトランクスと、そしてビーデルさん。

 なのに何故かブルマさんがいて(まあブルマさんの家だからいてもおかしくはないんだけど)、僕たち親子とベジータさん親子がよく似ているという話をして。

 というか、何でこんな話になったんだっけ?

 はっきりとしない頭で考えていると、ふいにブルマさんが言った。

「そんなことより悟飯君」
「はい?」
「みんな随分気持ち良さそうに寝ちゃってるけど?」
「へ?」

 向こうの木陰を見ると、悟天もトランクスもビーデルさんも、とても気持ちよさそうに眠っていた。

 そう言えば三人が寝ているのを確認して参考書を開いて、それから……。

 ……あ、僕も寝ちゃったんだ。

 この中って妙に気持ちいいからついウトウトしてしまった。

 と言うのは言い訳で、夕べはビーデルさんと一緒で……正直……ドキドキしてあまり眠れなかった。

 でも辺りを見回すとすっかり日が暮れている。このカプセルの中は外と同じ時間設定をされているから同じ時間だ。

 僕たちはこんな時間まで眠っていたのか?

 何だか勿体無いような気もした。


「お腹、減ってるのよね?」

 ふいにそう言われると同時に、

 グウ〜

 と、またも大きな音が鳴った。

「ハハハ、やっぱりね。でもこんな時間まで寝こけちゃってるなんてよっぽど夕べは眠れなかったのかしら?」

 ブルマさんはそう言って、何だか含んだような顔で笑った。

「な、なんですか!? それっ!!」
「別に。私は『眠れなかったのかしら?』って言っただけだけど?」
「うっ!!」

 またもしたり顔。

 途端顔が熱くなったのを感じた。

 ブルマさんって、時々何もかもお見通しって顔をする。本当に油断できないというか、元から切れる人なんだろうけれど、若い頃からいろんな経験(それこそ幼いお父さんと一緒に他の人には想像も出来ない冒険とか)をしてきているせいもあるかも知れないけれど。

 そんなお父さんとブルマさん。

 僕は一つ、気になっていたことがあった。

 今、思い切って聞いてみようか……。

「……あの……一つ聞いていいですか?」
「なあに?」

 ブルマさんはその青い瞳を僕に向けた。

「あの……ブルマさんって……僕のお父さんと一番付き合いが長いんですよね?」
「そうね」
「……それで……その……」

 僕は言いよどんでしまった。もし、僕が気にしつつも望んでいない答えが返ってきたら……。

「孫君と一緒になろうと思わなかったのか?かしら?」
「え?何で……」
「そうかな?って思ったわよ。何となく」

 思わず目を瞠った僕を見て、ブルマさんはケラケラと笑いながら言った。

「そうね。あのチビの孫君があんなに大きくなって格好よくなって現れたときはさすがにちょっとはときめいたわね。チチさんと結婚したときも惜しいことしたかな?って思ったし」

 やっぱりそうだったのか……聞かない方がよかったかも知れない。

 しかしブルマさんはニコリと笑って言った。

「でもね、私にとって孫君は所詮弟のような存在なのよ。あの頃私にはヤムチャもいたし。それにね」

 ブルマさんは僕の肩に手を置いた。

「あのハチャメチャな孫君よ?一緒に旅するだけで大変だったのに、ずっと一緒なんて考えられないわよ。そんなことが出来るのはチチさんくらいなものよ」

 そう言って笑った。

「ブルマさん……」
「悟飯君も知ってると思うけど、チチさんって孫君が迎えに来るのをずっと待ってたくらいに健気で、すっかり忘れちゃってる孫君を迎えに来るくらい一途なの。そんなチチさんしか孫君と一生を共にするなんて出来っこないわ」

 そう言うブルマさんの目は限りなく優しかった。

「それにね、あの孫君のことだから途中でチチさんに逃げられるかも知れないなんて思ったこともあったわ。それか一つのところに落ち着くことが出来ない孫君がどっか行っちゃうとか。でも孫君とチチさんが飛び立って再会するまでの5年間がどれだけ孫君にとって幸せな時間だったのか、あなたの存在が全てを語っていたわ」

 僕がお父さんの兄という人にさらわれてお父さんが死んでしまったあの日。

 あの瞬間が来るまで、僕たち家族はとても幸せだった。

 静かなパオズ山で、時折聞こえるお母さんの怒号。お父さんの謝罪の声。だけど、どこかしらコミュニケーションをとるような喧嘩で、すぐにお母さんが折れて仲直りして、すぐに笑い合えるような家庭で。

 お父さんが働かないとお母さんが嘆くことはあっても許容していたし、いくら小言を言われても必ずお母さんの元に帰って来ていたお父さん。

 今でもそうだ。あの世に行っても宇宙に行っても、何年かかってもお母さんの元へ帰って来ていた。

 それどころか絶望的な状況でもお父さんは奇跡を起こし、7年もの歳月をかけてお母さんの元へ帰って来ている。

 今思えば『成るべくして成った』という風にしか思えない。

 すると何だかまるでつき物が落ちたような感覚だった。

「安心した?」

 ブルマさんの声が優しげに響いた。

「……はい!!」

 その問いかけに、僕ははっきりと、澄み切った気持ちで返事をした。


 end
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