雨の日の唄

□雨の日の唄121〜
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雨の日の唄126


 正直に言って僕たちの家族は普通ではない。

 僕が幼い頃から、いや、お父さんが子供の頃から、いろんな騒動に巻き込まれ続けてきた。

 巻き込まれる、と言うのは語弊があるかも知れない。自ら飛び込んだこともあったのだから。

 だけど、これはサイヤ人の性のようなものかも知れない。僕自身は闘うことはあまり好まないが、それでも必要とあらば仕方がないと思っている。

 実のところ、そう思うことさえサイヤ人の性なのかも知れないと思うことすらある。

 そんな僕のことを、ビーデルさんは恐れているかも知れないと、僕は恐れている。

 宇宙人のハーフである僕のことを。常人ではない僕のことを。

 でも僕はお父さんの息子であることを誇りに思っているし、サイヤ人のハーフであろうと自分自身では全く気になどしていない。

 いつ何時、この間のような騒動が起こるかも知れない。そのとき僕は再び闘いに出ることだろう。

 でも正直、嫌だと思っている戦うということが、妙な高揚感で楽しいとすら思うことがあった。

 それはあのとき。セルとの戦いのとき。

 早く止めを刺せというお父さんの忠告を無視し、僕は徹底的にセルと痛めつけてやろうと思った。

 こんなヤツ、楽に死なせるものか。徹底的に痛めつけてやるという僕の中の残虐性。

 あのときのことを考えると妙に恐ろしくなる。

 自分の中にあるそれは、本当の自分の姿なのだろうか? そんなことすら考えたこともあった。

 そんな自分が顔を出してしまったことで、お父さんを死なせてしまう結果になってしまった。

 お母さんと悟天からお父さんを奪ってしまった。

 今、お父さんは生き返って、家族一緒に暮らしているとは言え、僕の犯した罪は消えない。

 彼女はこんな僕を嫌わずにいてくれるのだろうか?

 こんな僕を恐れずにいてくれるのだろうか?

 ある日、自分のしてしまったことの罪の重さに耐え切れずにお母さんに泣いて謝った。

 だけどお母さんは叱るでもなく、

『おめえは悪くねえ。何も悪いことなんかしちゃいねえだよ。だから謝る必要なんかねえだ』
『だって……』
『誰かが悪いんだとすればそりゃ悟空さだ。まだ子供のおめえをこんな戦いさ巻き込んで。悟空さはおっ父なのに、息子のおめえをこんな目に遭わせるなんてとんでもねえだ!! おらがあの世に行ったら、ちゃあんと文句言っとくだよ』

 そう言って大きな目を吊り上げたあと、噴出した。

 お父さんのせいじゃないのに……という理不尽さも感じたが、お陰で心が幾分か救われた。

 だってお母さんは僕のことを慮って明るく努めてくれているのだとわかっていたから。

 本当は悲しくて辛くて。でも僕のために笑ってくれる。

 心の中で何度『ごめんなさい』と言っただろう。

 どんなにお母さんが笑ってくれても、それでもつい口をついて出てくる『ごめんなさい』。

 するとお母さんは苦笑して、

『悟飯。悟飯が自分のせいだって思う気持ちもわかる。だけどおめえはあの孫悟空の息子だ。戦うことが好きだけど、この地球を大事に思ってる悟空さの』

 そしてお母さんは僕の腕をとった。

『そこまでおめえが責任を感じてるなら……』

 お母さんは僕の手を自分のお腹に添えさせた。

『お母さん……?』

 気を感じた。小さな小さな気。

『おめえはこの子のいいお兄ちゃんになってけれ。悟空さがおめえに教えてやったことを、この子にも教えてやってけれ』

 そう言って微笑んだ。

『お母さんっ!?』

 僕が目を瞠って言うと、お母さんは力強く頷いた。

『……本当? 本当なの?』
『んだ。これからはおめえがこの子に、悟空さがどんなに強くて優しくて、どんなにこの地球を大事に思っていたかを教えるんだ。おめえは、おめえたちはそんなおっ父の子供なんだって教えてやるんだべ』

 トクントクンと小さな鼓動が掌から伝わってきた。

 とても小さいけれど、お父さんによく似た優しい気。

 その気は「にいちゃんにいちゃん」と言っているようだった。

 涙が溢れた。

『悟空さがこの子にしてやれなかったことを、おめえがやってやるだよ』
『……うん……うん、お母さん……』

 何度も何度も頷いて、何度も何度も涙を拭った。

『兄ちゃん泣き虫だってこの子に笑われるだよ』
『うん……泣き虫のお兄ちゃんじゃダメだね』

 僕はそう言って笑った。

 何度も救われてきた。お母さんと悟天に。

 そして、お父さんに。

 どんなに変わっていても。どんなに危険に巻き込まれても。

 僕は家族を誇りに思う。

 僕たちとこの地球を守ってくれたお父さん。いつだって僕たち家族のことを一番に考えてくれるお母さん。そして、僕の心の支えである悟天。

 僕はそんな家族が誇りだ。

 僕がサイヤ人の血を引いていても、僕は地球人で、お父さんと同じようにこの地球を大事に思っている。

 もし、ビーデルさんが僕を受け入れてくれなくても。

 僕は陰ながらビーデルさんを守りたい。

 気付いて貰えなくても、彼女を守りたい。

 お父さんが、お母さんと僕たち、そして地球を守ったように。


 そしていつか。

 いつか、彼女が僕を、僕たちを受け入れてくれると信じよう。


 end
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