雨の日の唄

□雨の日の唄121〜
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雨の日の唄128


「ビーデルさん、起きて下さい」

 木の根元で眠っているビーデルさんの肩を揺する。

 華奢な肩だな……なんてことを思わず考えてしまった自分に自己嫌悪する。

「う〜ん……」
 
 ビーデルさんが目を擦りながら起きたので、慌てて肩に置いた手を離す。

「……悟飯君?」
「お、起きて下さい、もう夜ですよ」
「えっ!? ホントッ!!」

 ゴンッ!!
「イテッ!!」

 慌てて飛び起きたビーデルさんの頭が僕の顎に激突した。

「ヤダッごめんなさいっ!! 悟飯君、大丈夫っ!?」
「だ、大丈夫です……」

 結構痛かった。

「そ、それよりもビーデルさんは……?」

 僕でもあれだけ痛かったんだからビーデルさんは大丈夫だろうか?顎を擦りながら聞くと、

「え?私は大丈夫」
「そ、それはよかった」

 キョトンとした顔は我慢しているわけではなくて本当に平気そうだ。

「……ビーデルさん……意外と石頭なんですね……」

 思ったことがつい口をついて出てしまった。

 するとビーデルさんの顔が真っ赤になり、こちらを睨みつけるような目をした。

 怒らせたっ!? 一瞬そう思ったが、ビーデルさんは意外にも、

「……そ、そうかも……」

 と照れ臭そうに俯いた。

「……私、きっとパパに似ちゃったんだわ……だからあんまり痛くないのよ……」

 まるでこの世の終わりのような顔をしている。

「そんな……石頭くらいでそんな……」
「石頭って言わないでーっ!!」
「ご、ごめんなさい……」

 ビーデルさんは顔を手で覆い首を振る。

「いやでも、武道をやる上で頭は強い方が役に立つ……なんて……」
「フォローになってない!!」

 顔を覆っていた手を外し、睨みつけながら言う。

「大体、石頭が武道に役立つって何?」
「だ、だって、いざというときに頭突きとか?」

 ビーデルさんはハア〜と大きく溜息を吐いて、

「……ま……そうだけどね……」

 正直適当に言ったことだけど、ビーデルさんは納得していないという顔をしながらも、

「悟飯君だもんね……仕方がないか……」
「へ?」

 ビーデルさんは何だか納得する振りをしてくれたようで、その言葉をボソッと呟くように言った後ニッコリと微笑んだ。

 その顔に何だか胸が高鳴る。

 彼女はなんて綺麗に微笑むのだろう。

 などと考えて茫然としていると、

「悟飯君?」

 キョトンと、大きな瞳で覗き込まれた。

「っ!? あっ、はいっ!?」
「大丈夫?顔赤いけど、熱でもあるんじゃない?」
「だ、大丈夫ですっ!! 全然平気ですっ!!」
「そう?」

 ビーデルさんの顔が妙に近い。これは、どうしたものかっ!?

 一瞬、自分の手が動いた。自分の思考とは裏腹に、この手は彼女の肩を抱き寄せようとしている!!

 やばいっ!!

 そう思ったとき、ビーデルさんはそれは、本当にそれはそれは自然な動作で僕から離れた。

「そろそろ夕食の準備しなくちゃ。悟飯君、悟天君たち起こしてくれる?」

 ビーデルさんは立ち上がって腕まくりをした。

「……は、はい……」

 返事をしたものの、呆然としている僕にビーデルさんは向き直り、

「ほらっ、さっさと行く!!」
「は、はいっ!!」

 ビーデルさんは腰に手を当てて、寝ている悟天たちの方を指差した。

 その様に僕は思わず背筋を伸ばす。

 何だかその感じがお母さんに指示されているときのお父さんに似ているようにも感じた。

 ……僕って根本的にお父さん似なんだろうか?

 まいっか。

 胸中で呟いた父の常套句に、僕は思わず苦笑した。


 end
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