novel

□千羽鶴
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「ねえねえおかあさん。おりづるの折り方教えて」
「折鶴?」

 チチが洗い物を終えるのを見計らったように、悟天はチチの服の裾を引っ張って言った。

「折鶴なんてどうするんだべ?」
「あのね、学校のおともだちがね、足折って入院しちゃったの。だからね、みんなでせんばづる折るんだって」

 悟天はチチの足元でピョンピョン跳ねてながら言った。

「千羽鶴だか」

 チチは手を拭きながらリビングのソファーへと向かう。悟天はその後を追う。

 チチがソファーで寝そべっている悟空の足を叩くと、悟空は慌てて跳ね起きソファーに座った。チチはその空いたスペースに腰を下ろし、口を開いた。

「そのお友達は大丈夫なんだべか?」
「ぜんちいっかげつなんだって」
「全治一ヶ月だべか?そりゃ大変だべなあ」

 チチが気の毒そうに呻くと悟空が横から口を挟んだ。

「じゃあ仙豆やりゃいいじゃねえか?」

 その暢気な口調と発想にチチは大きく嘆息する。

「あのな悟空さ……悟空さたちじゃなくて普通の人だべ。仙豆なんて特殊なモンやっちゃ、おっかなびっくりで腰さ抜けちまうだよ」
「そうなんか?」
「おめえは知らねえだろうけんど、おめえがベジータさんと戦って大怪我して入院してたとき、おめえが仙豆食って出て行っちまった後そりゃ大騒ぎになって大変だったんだべ。おらと武天老師様、取り繕うので必死だったんだべ」

 そのときのことを思い出すと思わず溜息が出る。

 悟空が仙豆を食べると途端に元気になり、(文字通り)飛んで行ってしまったあと、悟空を目撃した医者や看護士などの病院関係者や入院患者の驚きは相当なもので、詰め寄る人々から逃げるのに大変だった。

 あのときはどうにか回避したが、元気になって嬉しさのあまりに人目も憚らず飛んで行ってしまった悟空を多少なりと恨んだものだった。

「ホント、オメエはいつでも後先考えねえもんだから、残されたモンは大変だべ」
「す、すまねえ……」

 悟空も大きな溜息を吐くチチに思わず謝罪の言葉が出る。本当に反省しているかどうかは定かではないにせよ、チチに『すまねえ』と言うことは一種の口癖のようなものではあった。

 一応、申し訳なさそうな悟空に小さく苦笑し、チチは悟天に向き直った。

「というわけで仙豆はあげられねえけんど、一生懸命気持ちを込めて千羽鶴さ折れば、お友達だってきっとよくなるだよ」
「ホント!?」
「んだ。悟天、折り紙さ持ってくるだよ。おっ母が教えてやるだよ」

 悟天の頭を撫でてそう言うと、悟天は嬉しそうに笑って折り紙を取りに飛んで行った。



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