過去拍手SS
□伝えたい言葉
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僕が小さい頃、父が言った。
『おめえにもいつか母さんみたいな人が現れる。その時はちゃんとでぇ好きだって言ってやれ。父さんは母さんに言えねえけどな』
僕が何で言えないの?と聞くと、照れくさいからだと言った。
その時僕は何で照れくさいんだろう?と思ったけど、今ならわかる。
すごくすごく好きなのに、すごくすごく大事なのに、それを口にする事がこんなに難しいなんて……。
好きだから、恥ずかしくて言えないんだ……。
でも、男だから言わなくてはいけない時がある。
父も言ってやれって言っていた、言葉にしなければ伝わらない事もある。
口下手で母には照れ屋な父だから、その事は人一倍わかっていたのかも知れない。
父は母に好きだって言ったのだろうか?
生き返ってからの父と母の様子から見ても、言ったんだろうなと思う。
僕も父に負けられない。
僕は意を決して隣にいる彼女に伝える事にした。
「……ビーデルさん……あの……」
彼女はキョトンとした顔で僕の顔を見つめる。
「何? 悟飯君」
彼女に名前を呼ばれるだけで心臓が高鳴る。
「……あの……僕……」
緊張で心臓の音が彼女に聞こえてしまうんじゃないかと危惧してしまう。
でも……
伝えたい言葉がある。
「君の事が好きです」
end