過去拍手SS
□Instead
1ページ/1ページ
「おとーさーんっ!!」
息子は川から顔を出し、大きく手を振った。
自分もそれを見て手を振る。
どうやら大きな魚を捕まえたらしい。魚を抱えてこちらの方へ泳いでくる。
あの泣き虫で小さな息子は、気が付けば立派な"男”になっていた。
一度目の自分の死の時、息子は荒野に一人置いていかれ、そのままサバイバル生活をしていたらしい。
そして、かつての自分の敵、今では良きライバルが息子を鍛えた。
自分が生き返った時には戦士になり、師匠を助ける為に宇宙にまで出て行った。
自分が宇宙で修行して留守にしている間は、妻を守っていてくれた。
あの泣き虫な息子は今、こうして自分の代わりに食料の調達もこなしてくれている。
……もう、身体が思うように動かなくなった自分の代わりに……。
裸で歩いてくる息子の身体は、死に別れた頃とは比べ物にならないくらい、筋肉も付いている。
「……もう……オメエに母ちゃん任せても大丈夫だな……」
「……なんですか? お父さん」
「何でもねえよ」
微笑んで息子の髪をタオルで拭いてやる。
擽ったそうにする仕草は幼い頃と変わっていない。
自分の小さな呟きは息子には聞こえていなかった。
でも本心だ。
もう、永くはない自分の代わりに妻を守って欲しい。
「……すまねえな……悟飯……」
お前達を置いて逝く事を―。
涙が一筋、頬を伝った。
end