過去拍手SS

□Drop of water
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あの大きかった背中が、

日に日に小さくなっていく。

逞しかったその腕も、

だんだん細くなっていった。


「おとーさーんっ!!」

 僕は捕まえた魚を川べりで座っている父に見せる為に大きく手を振った。

 父もそれに応えるように手を振ってくれた。

 出て行く時は頑なに道着しか着ない父は、母に無理矢理ジャケットを着せられた。
 そのジャケットも母から見えない場所まで来ると脱いで、肩からかけてた。そして僕らは笑い合った。

 そのジャケットから覗く腕は、以前のような太くて逞しい腕ではない。

 逞しかった父の身体は今、どんなに屈強な父でも勝てない病魔が巣食っている。


 父は退院してから僕達といろんな所を巡った。

 父の祖父の家、一緒に遊んだ山。

 いろんな所を巡った。

 その時の父の目は、何かを悟ったような目をしている。


 僕は魚を抱え、父の元へ行く。

 父の元へ行く途中、父は何かを言ったように思ったが聞こえなかった。

「……なんですか? お父さん」
「何でもねえよ」

 そう言って微笑む父。

 そして父はタオルを持って、「頭出せ」と言った。

 素直に応じると父はタオルで髪を拭いてくれた。

 幼い頃、お風呂上りや今のように川で遊んだ時はこうやって髪を拭いてくれた。

 いつも擽ったくて、今は何だか気恥ずかしい気もする。

 でも、この大きな手が大好きだった。

「……すまねえな……悟飯……」

 今度ははっきりと聞こえた。


 タオルの隙間から見えた父の頬。


 ……それはきっと……僕の髪の水滴なんだ……。


 僕の頬にも、水滴が伝った―。


 end

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