過去拍手SS
□小さな寝息
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パンver.
「パパ……」
書斎で研究論文をまとめていると、小さな娘がくまのぬいぐるみを抱えて入り口に立っていた。
「パン、どうしたんだい?」
声をかけるとこちらへ走ってきて、僕にしがみ付いた。
「パン……こわい夢見たの……」
そう言ってしがみ付く力を強める。
「どんな夢だい?」
「あのね……なんだっけ?」
キョトンとする娘に苦笑する。
「でもね、すっごくすっごくこわかったの!!」
くまを抱き締めて必死になって言う娘の大きな瞳が妻のそれにとてもよく似ていた。
「じゃあパン、パパとママと一緒に寝るかい?」
「いいの?」
「いいよ」
この論文も別に急ぐものではない。明日にでもできる事だ。
今日はもうこの辺で切り上げよう。
娘の小さな手を握り、寝室へと連れて行く。
娘と一緒にベッドに入り、背中を擦ってやるとすぐに小さな寝息が聞こえてきた。
そういえば、僕も小さい頃、怖い夢を見たと両親の寝室に泣きながら駆け込んだ事があったっけ。
あの時の父の胸が妙に安心できた事を思い出す。
父と母と3人、川の字で眠ると、もう怖い夢なんて見なかった。
僕もこの子にとって、あの時の父のような存在になれているのだろうか?
でもこの子はこうして安心した寝顔を見せてくれている。
僕はあの時の父に少しでも近づけた事を実感した。
あどけない、妻によく似た小さな娘の寝顔を見ながら、僕は小さく微笑んだ。
end