過去拍手SS
□鼓動(悟チチ・チチver.)
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夫が生き返って最初にしたことは、その鼓動を確認することだった。
夫の大きな胸に耳を押し付け、その鼓動が息づいている音を聞く。
ドクンドクンと、その鼓動を感じると、夫の無骨な手が自分の肩に置かれた。
見上げれば夫の笑顔。
その夫の胸に顔を埋め、ただ泣いた。
すると、やっぱり鼓動が聞こえる。
どんなに長い7年間だったか。
でも夫が遺してくれた愛息たちが、自分の寂しさを埋めてくれた。
息子たちを育て、慈しみ、共に支えあって生きてきたこの7年間。
父親にも、夫の仲間にも、支えられ、励まし合ってきた。
苦労もした。夫恋しさに泣き明かした夜もあった。
でも、今日のこの良き日、夫は帰ってきた。生き返った。
これからまた、共に生きていける。
7年間の苦労も、全て報われる。この鼓動を聞いていると、全て洗い流されるような気がした。
『早くパオズ山に帰えってチチの手料理が食いてえぞ』
そう言う夫のために。
今日は腕によりをかけて、もうこれ以上食べられないというくらいの料理を作ろう。
初めて家族4人揃って同じ食卓を囲む。
同じ顔が三人、同じように丼飯をかき込み、同じように顔に米粒を付けて、同じように『おかわり』と言うのだろう。
そして家族の鼓動が重なり合って、どこか欠けていたあの山奥の家は満たされていく。
奏であう鼓動が、家族を包むのだろう。
ありがとう、帰ってきてくれて。
今はただ、
この鼓動を身体いっぱいに感じていたい。
end