過去拍手SS

□Father's Day
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 トランクスは翌日の朝からパオズ山の川へ行くことにし、そのため孫家に泊めて貰うことになった。

 悟飯と悟天の母・チチはそれを快諾し、ブルマに電話をしてくれた。
 そのついでだろうか。母たちは何やら楽しそうにお喋りをしていたが、チチは切る前にトランクスに受話器を差し出した。

『アンタが逃げたってベジータカンカンだったわよ』
 ブルマはケラケラと笑いながら言った。

「ゴメンってば……パパには上手く言っといてよ」
『はいはい。アンタが何を企んでるか知らないけど、孫君はともかく、チチさんと悟飯君に迷惑かけちゃダメよ』

 母はそれだけ言うとあっさりと電話を切った。

 母は何か気付いているようだ。父と違い、明日は何の日だか知っているだろうし。そう思うと何だか気恥ずかしいような気もするのだが。


 夕方、孫家の主である悟空が修行から戻ってきた。

 聞けば毎日修行に出て、たまに遅くなってチチに叱られているのだという。
 そんな悟空にトランクスは、おじさんもパパと同じだな……などという感想を抱いた。

 悟空は帰るなり飛びつく悟天を抱き上げ肩に乗せ、そしてトランクスの頭を撫でた。

「ようトランクス。今日は泊まってくんか?」
「うん」
「じゃあ今日は一緒に風呂へえるか? チチ、風呂沸いてっか?」

 悟空は台所のチチに声をかける。

「ああ沸いてるだよ。そう言うと思ってドラム缶風呂沸かしておいたべ」
「サンキュー」

 三人で連れ立ってドラム缶風呂に入る。
 悟空は悟飯にも声をかけていたが、にべもなく断られた。
 
 ギャアギャアと騒いでいるとチチの雷が落ちたが、三人は顔を見合わせて肩をすくめて小さく笑い合った。

 風呂から上がると夕食はすっかりと出来上がっていた。
 チチの手料理は本当に美味い。
 しかしながらその材料は獣だとか恐竜だとかとんでもないものだけれど。
 最初は驚いたが、食べてみるとチチの料理法もあいまってか実に美味いもので。
 こんな美味なものに変身するのだから本当に不思議だ。

 孫家の食卓はとにかく賑やかだ。

 男三人でおかずの取り合い。その度にチチの雷。でも笑いが絶えない食卓。

 トランクスは食事中は静かに、と言われて育ってきた。
 それに母はたまにではあるが仕事で一緒に食事が出来ないこともあるし、父に至っては修行に出たまま戻って来ないこともしばしば。
 なのでトランクスは祖父母と一緒に食事をすることが多いのだが、祖父も研究室に篭もったまま出て来ないこともある。
 そういうときは祖母とふたりっきりの食卓になる。

 だからこんなに賑やかな食卓は新鮮で、つい三人と一緒になって食べ過ぎてしまった。

 デザートも食べ、お腹も満腹になったトランクスは、今朝夜が明ける前に家を抜け出してきたこともあってか大きな欠伸をした。

「トランクス、随分眠たそうだべな。もうお布団敷くべ」
「うん。ありがと」

 目を擦りながらチチに返事をするトランクスの頭を悟空は撫でて、

「明日みんなで修行するか?」
 ニカッと笑って言うが、

「ううん、明日は悟天とすることがあるからいいよ」
「そっか?残念だな」

 見も蓋もないトランクスの返事に悟空は少しガッカリした色を見せた。しかしトランクスはそんな悟空に含んだような笑いを浮かべて言った。

「そのかわりもっといいことがあるよ!!」

 悟飯に目配せをすると悟飯は苦笑した。
 
 悟空は不思議そうな顔をしてトランクスと悟飯を順番に見ていた。


「なあ悟天。魚いっぱいいるかな?」

 狭いベッドではなく、二人で枕を並べて寝られるようにと床に敷かれた布団に寝そべりながらトランクスは言った。
 そう言いながらも瞼は相当重い。
 
「いつもおっきいお魚いっぱいいるんだよ。きっと明日もいるよ」
 悟天はトランクスの隣で枕を抱え、足をバタバタとさせている。

「ほら。明日早くから川に行くんだろ?いっぱい寝とかなきゃへばっちゃうぞ」

 いつもはまだ勉強の時間のはずの悟飯が既に就寝の準備を整えていた。

「兄ちゃん、今日は早いんだね?」
「明日お父さんの修行に付き合うからね。ちゃんと眠っておかないとね。ほら、お前たちも早く寝るんだ」
「はーい」
「おやすみなさーい」

 チビ二人は布団に潜り込んで顔を見合わせて何やらクスクスと笑い合っていたが、あっという間に小さな寝息へと変わった。

 悟飯はそんな二人を見て微笑み、電気を消した。


 
 翌朝早くから悟天と二人でパオズ山深くの川に向かった。

「ごてーん!! 魚いるかあ?」
「全然いないよー!!」
 
 川から顔だけ出して、トランクスと悟天はお互いに声をかけ合った。

「いつもだったらいるんだけど」
「なんで今日に限って全然いないんだよ……」

 大食らいの父のためにパオズ山の大きな魚をプレゼントしようと思ったのに全く見付からない。

「くっそー!! なんでだよー!!」
「おっかしいよねえ?」

 誰に似たのか間延びした口調で答える悟天に緊張感など感じない。

 コイツって焦らないのかな?などと思ったりしたが、今はそれどころじゃない。

「他に代わりのものとか無いかなあ?」

 キョロキョロと見渡すと、悟天が突然「あっ!!」と叫んだ。

「なんだよ?」

 悟天はいきなり駆け出すと草むらの前で座り込みゴソゴソとあさり出した。

「トランクスくんっ!! キイチゴだよっ!!」
「キイチゴ?」

 草むらの向こうを見れば鈴生りの木苺。魚にばかりに気を取られ、こんなに近くに生っていたことに気が付かなかった。

「うん!! これでねおかあさんにケーキ作ってもらうんだ!!」
「ケーキ?」
「うんすっごくおいしいんだよ!!」

 想像しただけでも涎が出そうな母のケーキ。悟天はいいものを見つけたとばかりに木苺を次から次へと摘み取る。

「……それだっ!!」
「なにが?」

 トランクスは何か閃いたのか突然叫び、悟天は首を傾げた。



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