リクエスト・捧げもの
□ある春の日
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春の麗らかな日差しの中、悟空は悟天に修行をつけていた。
「悟天、そんなモンじゃ悟飯どころかトランクスにだって一生勝てねえぞっ!!」
「っ、クソッ」
悟天は悟飯の事は大好きだが、比べられるのは好きではない。ましてや1歳しか違わないトランクスなら尚更だ。
悟空もその事をよく知っているから、発破をかける為にわざと口にする。
「これでどうだっ!!」
悟天は渾身の一撃を放つ。
「いっ!?」
それは悟空にも予想外の凄まじい一撃で―
防御の為、思わず放った一撃が相打ちの形でぶつかりお互いの間で凄まじい爆発が起こった。
「うわっ!?」
悟空はその衝撃で思いきり吹き飛ばされた。
「いちち……って、悟天!?」
身を起こすと100mほど先に悟天が倒れている。
「おいっ!! 悟天っ大丈夫か!?」
反応がない。どうやら悟天は気を失っているようだ。
立ち上がって悟天の所へ行こうとするも、思いのほか衝撃が凄かったらしく、思うように身体が動かない。
悟天の事を心配しながらも、これだけの力を出せるようになった悟天の成長にちょっと嬉しく思ったり……。
そんな事よりも悟天は大丈夫なのか!?悟空は何とか立ち上がり、悟天の方へ向かう。
「悟天ちゃんっ!?」
「へ? チチッ?」
お昼のお弁当を持ってきたのだろう。チチは持っていた大きな風呂敷包みを放り投げて、悟天の元へ走り寄った。
「悟天ちゃんっ!! 大丈夫だべかっ!?」
チチが悟天を抱き抱えた。
「悟天ちゃんっ悟天ちゃんっ!!」
チチは悟天の名を何度も呼ぶ。
「……う〜ん……」
「悟天ちゃんっ!!」
「……お母さん……? いたたた……」
悟天は身体を起す時に痛みが走った。
「悟天ちゃんっ!! どこか怪我しただかっ!?」
「ううん、ちょっとぶつけただけみたい。もう大丈夫だよ」
「そうだか……よかっただ……」
悟空は母子のやり取りを呆然と見ていた。
(何だよ……オラだって……)
悟天ばかりのチチがちょっと面白くない。
「悟空さっ!!」
チチはホッとした顔を見せた直後、目を吊り上げ悟空の方に向き直って怒鳴った。
悟空は条件反射のように身体をビクッと震わせ、その拍子に身体に痛みが走った。
「いてっ」
「何が痛えだか!? 悟空さ、悟天ちゃんに何しただっ!?」
チチは悟天を抱えながら声を荒げた。
「何って、修行じゃねえか?」
悟空は痛みに顔をしかめながら言う。
「そったら事聞いてんじゃねえ!! 何で悟天ちゃんが気を失って倒れてたか聞いてるんだ!!」
チチは悟天から離れて悟空の方に向かう。
「悟天の気孔波が結構凄くて、オラついつい打ち返しちまっただけだ。」
「悟天に何かあったらどすんべ!? それに悟天はまだ12だぞ!? 何で気を失うほどやっちまうだ!!」
チチは悟空に掴みかからんとするほどの勢いだ。
「……だからそれは……」
「ちょっとやり過ぎでねえか!? 悟空さの気孔波なんて受けたら死んじまうかも知れねえでねえかっ!?」
「だから、悟天もすげえ力で……」
「そりゃ悟空さの子だから悟天の力がすげえのはわかってるだよ!! でも悟天はまだ12だべっ!!」
チチは腰に手を当てて怒鳴った。
「……12でも悟天の力はすげえんだって!! ここぞって時にすげえ力が出るんはオメエそっくりだ」
悟空は苦笑しながらも、悟天のチチに似ている所を発見したようで嬉しかったりもする。
「何笑ってんだ!? 今は誰もそんな事言ってねえべ!!」
チチは顔を赤らめながら言う。
「っ、オメエも悟天ばっかで、オラだって身体ぶつけて痛えんだぞっ!!」
「悟空さみたいな筋肉の塊はちょっとくれえの衝撃は平気だべ!?悟天はまだ子供なんだ!! 悟空さは自分の子がかわいくねえんだか!?」
「かわいくねえワケねえじゃねえか!? ……オメエは昔っからそうじゃねえか!? 悟飯悟飯ていつも悟飯ばっかでさ!! 今は悟天かよっ!?」
悟空も珍しく反論する。
「何言ってんだ!? おめえが一番心配かけたでねえか!! おらがどんだけ心配してたかわかってなかっただか!?」
「そりゃわかってっけど、オメエに構って貰えなかったのは嫌だったんだぞ!!」
悟空も昔からの不満が爆発したのか、今まで言った事の無かった事を口にしていた。
「こっ……子供の前で何言ってんだ!? それにオメエ、そんな事一言も言ってなかったでねえかっ!!」
チチは悟空の思いもよらない不満に顔が真っ赤になった。
「言ったってオメエは子供が一番じゃねえか!? ……そりゃオラだって子供は大事だけどよ……オラだって……」
悟空は少し寂しそうに俯き加減で言う。
「悟空さの事は大事に決まってんだろ!? でねえと7年も死んじまってたおめえの事待ってねえだ!! 子供が大事なのだって悟空さとおらの子供だからでねえか!!」
「だからってよ……」
「ちょっとお二人さん」
呆気にとられて両親のやり取りを見ていた悟天がついに声をかけた。
彼の両親は二人揃ってキョトンとして悟天の方に振り返った。
「いい加減にただのノロケって気付いたら?」
「「へ?」」
悟空とチチの声がかぶる。
「お母さんが構ってくれないとかお父さんが大事だとか、もうただのノロケだよ……」
悟空とチチはずっと同じ姿勢で悟天を見る。
「僕トランクス君の所行ってくるから」
そういうと悟天は立ち上がってパンパンと身体の埃を掃い、飛び上がった。
「あ、今日トランクス君の所に泊めて貰うから」
上空から叫ぶ。
「僕ってなんて親孝行なんだろ。それにしてもお父さん、珍しく言い返してたなぁ……内容が内容だけど……」
父の先程の姿に苦笑する。
「でもあそこまで仲がいいとねえ……自分達でノロケてるって事も気付かないなんてね。まあそれでも……」
あの二人が幸せだと、どんなにド天然夫婦でも別にいっかってなる。
悟天は自分を見上げて呆けている両親の姿を見下ろして笑みをこぼした。
両親の惚気も心地よく聞こえなくもない、ある春の日のお話―。
end
→あとがき