リクエスト・捧げもの
□Both lovers
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世間とは打って変わって静かなはずのパオズ山に、今日も怒声がこだまする。
「悟空さっ!! 金髪はやめてけれって言ったでねえか!?」
「これも修行なんだって!!」
パオズ山の若夫婦の掛け合いはいつもと同じ。
とてもこの間まで心臓病で寝込んでいた旦那さんと同じ人とは思えないし、付きっ切りで看病して倒れてしまうのではないかと思われた奥さんには見えない。
「何で悟飯ちゃんまで不良になっちまっただぁ〜!?」
「だからぁ〜修行なんだってぇ〜」
泣き喚く奥さんに旦那さんはほとほと困り果てる。
「不良は嫌いだって言ったでねえかっ!?」
怒鳴る奥さん。
こういう時、旦那さんは必ずと言っていいほど「すまねえ」と言って許しを請う。
奥さんもそうくると思っていたし、粗方怒った事だし、地球を守る為の修行だからもう許そうと思っていた。
しかし……。
「……オメエがこの姿が嫌だって言うならオラ……いねえ方がいいのかなぁ……?」
「え?」
予想に反した言葉が返ってきた。
「オメエが嫌だって事、オラしたくねえし……オメエがこの姿が嫌ならオラ、セルゲームが終わるまでオメエのいねえトコに行くよ……」
しょんぼりと呟く旦那さん。
「え?」
予想外な言葉に奥さんは戸惑った。
「……じゃあな……」
踵を返して玄関へと向かう旦那さん。
「ちょっ、待ってけれ悟空さっ!!」
旦那さんの後を追う奥さん。
「誰も悟空さがいねえ方がいいなんて言ってねえでねえかっ!?」
「……オメエ、この姿嫌いじゃねえか」
旦那さんは奥さんに背を向けたまま言う。
「嫌いでねえよっ!!」
と、奥さんが言った拍子に、旦那さんは奥さんのその華奢な身体を抱き締めた。
「全く、オメエは素直じゃねえなあ!! オメエがこの姿のオラも好きって知ってるかんな!!」
「っだ、騙したなっ!! どこでそんな姑息な手覚えてきただーっ!?」
奥さんを抱き締めたまま、屈託無く笑う旦那さんに、抱き締められたまま、真っ赤になってぎゃあぎゃあ喚く奥さん。
地球滅亡の危機まであと9日。
それでもここパオズ山はいつもの通り平和だった。
……なあ、チチ……。
オメエが黒髪のオラの方が好きなのはわかってる。
でも黒髪のオラも超化してるオラも、変わらずオメエが好きだ。
……だから……
なあ、チチ―。
end