リクエスト・捧げもの

□君と歩む道
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 悟飯はいつもの待ち合わせ場所である公園のベンチでビーデルを待っていた。

 もう夕暮れ時。辺りには人気はもうなかった。

 悟空の言った事をもう一度考える。

『お互いに好き同士なら思っている事も同じ』

 もしそうなら、ビーデルも自分と同じように思っていてくれるはずだ。

 でもそうじゃないなら?

 こうして思いを告げ、付き合う事になったけれど、ビーデルが自分が思っているほどに自分の事を好きではなかったら?

 そんな不安が悟飯に付きまとう。

 この期に及んでまだ踏ん切りがつかないなんて……悟飯は自分で自分が情けなくなった。

 でも悟空が言ったように誰かに取られてしまったら……。

「悟飯君、待った?」
 不意に現れたビーデルに悟飯の心臓は跳ねる。

「い、いえ、僕も今来たところですからっ!!」
 1時間も前にここへ来て考え込んでいたのだが……。

「で、どうしたの? 話って?」
 ビーデルは来るなり唐突に聞いてきた。

「あ、あの……」

 悟飯は口籠った。何から言ったらいいのかわからない。

 でもここで決めなきゃ男じゃない!!ビーデルの顔を見てやっと決心がついた。

「……ビーデルさん……僕の事好きですか?」

 単刀直入すぎただろうか? 横目でビーデルの顔を見ると真っ赤になって俯いている。

 単刀直入すぎたんだ!!悟飯は早々に志気が萎えてしまいそうだった。
 
 しかし、
「好きよ」

 微かに聞こえるビーデルの声。

 悟飯は勢いよくビーデルに向き直った。

「ビーデルさんっ!! ぼ、僕っ本当にビーデルさんの事が大好きですっ!! でも僕、度胸がなくて……こんな僕でも……好きですか……?」
 
 ビーデルは先程とは違って真っ直ぐに悟飯を見据えている。

 悟飯はこの日初めてビーデルの目を見た気がした。
 
 気の強さと優しさを備えた、大きな目。悟飯の好きな瞳。

「当たり前じゃない。私はずっと悟飯君が好きだったんだから。私の方こそ、悟飯君が私の事好きじゃなくなったんじゃないかって……」
 
 ビーデルは俯き、顔を真っ赤にして呟いた。


 悟飯が一向に何もしないものだから、ビーデルは自分こそ嫌われたのかも知れないと思っていた。

「そんな事ないですっ!! 僕は日増しにビーデルさんの事、好きになっていって……大事だから、大切すぎるから……嫌われたくなくて……」

 それ以上は語尾を濁してしまう。でもビーデルにはわかった。

「悟飯君。私は何があっても悟飯君を嫌いになったりなんかしないわ。それよりもっと…好きになると思う」

 はっきりと宣言するビーデルに、悟飯は愛しさが溢れるのを感じ、これ以上自分を抑える事が出来そうになかった。

「……ビーデルさん……」
 
 悟飯がその名を口にすると、ビーデルは目を閉じた。

 そして、ゆっくりとその顔に、悟飯は自分の顔を近づける。

 そのかわいらしい唇に自分の唇を重ねた。

 軽く、触れるだけのキス。

 悟飯はすぐに唇を離した。

 ビーデルの顔を見ると真っ赤になって悟飯を見上げている。その顔は微かに微笑んで。
 
 悟飯は自分でもすごく真っ赤になっているんだろうなと思った。こんなに短いキスだったのに。でも……。

 すごく短いキスだったけれど、二人の心は満ち足りていた。

 二人は目を見合わせて微笑みあった。幸せだと、心から感じて……。

 今の自分達にはこれが精一杯だ。

 でも、焦る事はない。気持ちは通じ合っているのだから。

 少しずつ、一歩ずつ、一緒に歩んでいけばいいじゃないか。一緒に成長していけばいいじゃないか。

 もう一度触れるだけのキスをする。それだけでも自分達は幸せだ。

 
 夕暮れの中、二人は手を繋いで歩いて行く。

 あんなに勇気がいった行為でも、今は自然に出来る。

 今は彼女の家までの道だけれど、これから二人で一緒に歩いて行く道はずっと続いていくんだ。

 お父さんとお母さんのように……。悟飯はそう心から願った。



君の事が大切で、
君の事大好きで、
これからもずっと一緒にいたいと思うから。

君と歩む道は果てしなく長いと思いたいから。

ずっと、
一緒に歩いていきたいんだ―。


 end

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