リクエスト・捧げもの
□太陽と向日葵
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アイツは自分を太陽と言った。
自分はアイツが太陽だと思う。
「わぁ!! キレイ!!」
久々に修行についてきたパンをとっておきの場所に連れて来てやった。
「パンッ、あんまりはしゃいで向日葵倒すんじゃねえぞ」
「そんな事しないわよっ!!」
12歳になったばかりのパンはもう思春期を迎えていたが、悟飯の血だろうか、早熟なようで幼い部分も時たま見て取れた。
新婚の頃、修行中にたまたま見つけた向日葵畑。
チチの笑顔が見たくて連れて来てやった。
案の定チチは喜び、この花が向日葵という名だと教えてくれた。
太陽の方を向くと言う向日葵。
チチは悟空の事を太陽で、自分は太陽の方を見続ける向日葵だと言った。
しかし悟空は、チチが太陽で、チチから目を離せない自分こそ向日葵だと思った。
昔の甘い記憶に思いを馳せながら孫娘のはしゃぐ姿を眺める。
あの時のチチも今のパンのように、飛び跳ねながら向日葵畑を駆けて行った。
パンは悟飯の嫁のビーデルによく似ている。
だけど悟飯にも似ていて、悟空の血筋も感じられる。
しかし、チチにも似ているのだ。
パンは12になった。
チチが悟空と初めて会った時と同じ年齢。
チチはあの時、自分の人生を決めてしまった。
それによって悟空の人生も決まったと言っても過言ではない。
悟空は結婚したての頃はチチの言っている意味もわからず、ただただ戸惑った。
しかしあの時のチチの決断が、悟空を男にし、父親にし、更には孫まで持つ身にした。
自分はチチに与えられてばかりでチチに何か与えてやったのだろうか。
働きもせず、ただより強くなる為だけの修行ばかり。
死んだり宇宙へ行ったり、チチを苦しめてばかりだった。
それでも一緒にいてくれるチチに何をしてやれているのだろう。
「おじいちゃん?」
パンがボーっとしている悟空の顔を覗き込みながら声をかけた。
「ん? どした?」
「おじいちゃんこそどうしたの?」
「んー?」
それでもまだボーっとしてるのか、曖昧な返事しかしない。
「なぁパン。向日葵って太陽の方を向くって知ってっか?」
悟空は向日葵を眺めながら唐突に問う。
「うん。おばあちゃんが昔教えてくれたよ」
「ばあちゃんが?」
「うん。それでね……」
パンは悟空の隣に座って口を開いた。
「おばあちゃんが言うにはね、人ってみんな向日葵で、自分の好きな人は太陽なんだって。好きな人の方ばっかり見ちゃうからって」
「……チチが?」
「うん。それにね、お日様の方を見れるだけで向日葵は幸せだし、お日様の日差しを浴びる事が出来る向日葵はもっと幸せなんだって言ってたの。最初はね、向日葵の幸せの話をしてたと思ってたの。でもね、最近わかったんだ」
「……何がだ?」
悟空は話すパンの顔にチチの面影を見た気がした。
「好きな人を見れるだけで幸せだし、好きな人の傍にいれるだけでもっと幸せだって言いたかったんだって」
「……チチがそんな事……」
チチは自分の幸せをパンに話して聞かせていたのだ。
あの時、若かりし頃、チチは悟空を太陽だと言った。
太陽は好きな人の事だという。
チチにとっての太陽は悟空。
チチは悟空を見つめる事が、悟空の傍にいれる事が幸せなのだと。そうパンに暗に教えていた。
「ねえおじいちゃん。おじいちゃんの太陽っておばあちゃん?」
パンは微笑みながら聞いてくる。
「ああ、あたりめえだ。じいちゃんの太陽はばあちゃんだ!!」
悟空の答えを聞いて、パンは満面の笑みになる。
「オメエの父ちゃんの太陽はオメエの母ちゃんで、母ちゃんの太陽も父ちゃんだ。オメエの太陽は誰だ? パン」
その瞬間、パンは真っ赤になった。
パンが恋をしているようだと父親の悟飯が複雑そうな顔で言っていた。
それがどうも次男の親友のようだと。
自分達夫婦、親子のように初恋を実らせる事は難しいのかも知れない。
でも、この孫娘が結果的に幸せになってくれればいい。
自分の妻が傍にいるだけで幸せだと言ってくれたように。
自分が妻の傍にいるだけで幸せなように。
今日も向日葵のように太陽に向かう。
夏だけではない。
春夏秋冬、ずっと、永遠に―。
end