リクエスト・捧げもの
□慶びの日
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孫家の長男・悟飯とミスター・サタンの一人娘ビーデルが、数年間の交際を経て、今日結婚式を挙げた。
幼い頃より、父親が破天荒だったばっかりにいろんな苦労をしてきた悟飯だったが、高校生になり、ビーデルと出会い、互いに恋をし、こうして共に生きる事になった。
「悟飯もいっぱしの男になったって事なんだよな……」
「何を今更。」
披露パーティーの最中、来賓に挨拶をして回っている二人を、新郎の両親の悟空とチチは感慨深く見つめていた。
悟空はめったに着ないスーツを着せられて窮屈だけれど、息子の晴れの舞台だから、この時ばかりは文句も言わずにいた。
チチもいつもとは違い着飾っていて、悟空の目から見ても美しい。
「だってよ、オラ結婚の意味もわかんなかったかんな」
「悟空さと一緒にするでねえよ」
笑いながらハッキリと言う妻に、悟空は苦笑する。
「オメエが来てくれなきゃ、オラ結婚なんて絶対にしてねえだろうしさ」
「まあ、なかなか迎えに来ねえ悟空さに痺れを切らせて、おらの方が迎えに行ったんだべな。お陰で天下一武道会にまで出ちまったべ」
ちょっとふくれっ面のチチ。
とても新郎の母とは思えないくらいに若々しい。
「それはオラも悪かったって思ってっぞ。結婚の意味もわかんなかったのも迎えに行かなかったのも……でもオメエがいなかったら、オラどうなってたんかな?って今でも思うんだ」
「大好きな修行し放題で、もっと強くなってるかもな」
チチがちょっと意地悪く言った。
「それはねえな。だって、オメエを守りたいからオラ強くなりてえんだ。オメエがいなけりゃ、オラここまで強くなれてねえな」
「……悟空さ……」
「男ってのはさ、守りたいヤツがいて初めて強くなれんだ。それがオラにはオメエだったんだ」
悟空は隣の妻に微笑みかける。
「悟飯も、守りてえヤツが出来たんだ。オラ、親としてそれがすげえ嬉しいんだ」
仲睦まじく、微笑み合う息子夫婦に視線を移す。
「……そうだべな……」
チチは夫の逞しい腕にその細い腕を絡める。
そして悟空も、その体温と幸せを感じる。
悟飯の隣で微笑むウェディングドレスのビーデルを見ていると、自分と結婚式を挙げた時のチチの姿を思い出す。
母の形見の真っ白なウェディングドレスを着て、美しく微笑むチチ。
今自分の隣にいる妻は、あの頃と何も変わってはいない。
そんなチチと共に生きる事が出来る幸せ。
その幸せと同じ幸せを、息子は手に入れた。
親として、息子の成長が心の底から嬉しい。息子に守るべき存在ができ、そして共に生きる選択をした事を誇りに思う。
自分と同じように、大切な存在と共に生きる喜びを知ってくれた。
じっちゃんも、そう思ってくれてるよな。
息子と同じ名の育ての親を思う。
自分と息子の選択を、祖父は心の底から喜んでいてくれるに違いない。
そして、ここにいる全ての人が。
自分を広い世界に連れ出してくれた女も、自分の師匠も親友も、そしてかつてのライバル達も、自分がこの妻と出会い、子を成し、そしてその子がまた良き伴侶を手に入れた事を―。
嫁の父親が号泣し、それを妻の父親が慰めている。
娘を嫁に出した経緯は違えど立場は同じ。妻はすでに亡く、一人娘を嫁に出しているのだ。
サタンが泣きやんだところを見ると、義父が何かいいアドバイスでもしたのだろう。
ここはとても平和だ。
そして、とても幸せに満ちている―。
幼い頃より闘いに巻き込まれた息子の晴れの舞台は、非常に穏やかだった―。
end