リクエスト・捧げもの

□We wish a new year
2ページ/3ページ


 悟空の言う通り年越しそばが食べたいわけでも無さそうだ。

 こればかりは悟天にしかわからないのだ。

 無邪気な悟天だけど、結構いろんな事を考えている。いろんな事を思っている。


 悟飯は父の膝で眠る弟を見て微笑む。

「でもやっぱりベッドで寝かさないと風邪ひきますよ」
「そうだなぁ……やっぱり連れてくか?」

「やだっ!! 絶対にお正月まで起きてるのっ!!」

 眠りこけていると思っていた悟天が叫んだ事に一同は驚いた。

「そんな事言ってもここで寝ちゃダメだよ。ちゃんとお布団で寝ないと……」
「やだったらやだっ!!」

 普段から末っ子気質でちょっと我がままなところのある悟天だが、今日はちょっとわけが違うようだ。

「悟天、何でそんなに起きていたいんだい?」
「だって……みんなでおめでとうって言いたいんだもん……」

 よっぽど眠たいのだろう。片手で悟空の膝を抱え込み、片手で目を擦りながら悟天は小さな、消え入りそうな声で呟いた。
 
「それは明日の朝でも……」
「違うのっ!! みんなでお正月を迎えるの!! ……だって……初めてなんだもん…」

 愚図りながら言う悟天に両親はキョトンとしている。

 しかし悟飯はその小さな胸のうちに気付いた。

(ああそうか……)

「悟天……お父さんと迎える初めてのお正月だから、一緒に迎えたかったんだね?」

 悟飯は悟天の顔を覗き込んで言った。

「……うん……」

 ちょっと恥ずかしそうに、悟空の膝に顔を埋めながら頷く悟天に、三人は顔を見合わせて微笑む。

「そうだったんかぁ…」

 悟空はそう言って目の高さまで悟天を抱き上げると、悟天は悟空の首に腕を回してきた。

「……だって……おとうさんに一番最初に『明けましておめでとう』って言いたかったんだもん……」

 悟空の首に縋り付いてそう言う悟天が、三人にとっては何よりもかわいくて…。


 7年目にして一緒に迎える初めての新年。

 どれだけ寂しい思いをさせてきたか…。
 悟空に今更のように後悔の念が押し寄せる。

「ごめんな悟天。父さん気付いてやれなくて……」

 悟空は愛しげに悟天の頭を撫でる。

「……それにね……一緒におめでとうを言うとね、今年もずっと一緒にいてくれるって思ったんだ……おとうさん、もうどこにも行かないで、ぼくたちと一緒にいてくれるって思ったの……」
「……悟天……」

 悟天の幼い胸の奥に、いつも父がどこかへ行ってしまうのではないかという不安があった。
 風のような父が、またフラっとどこかへ行ってしまうのではないかと……。

 悟飯にもその気持ちが痛い程わかる。
 悟飯もかつてこの父に対してそう思った。

 どこか危うげなこの父は、基本的には一つの場所に留まれる人間ではない。
 それでも、この父が奇跡を起こしてでも必ずここへ帰ってくるのは、ここに母がいて、子供達が、家族がいるからだ。
 それがわかっている今は、それほどこの父に対する不安は無くなった。

 でも幼い悟天には、それがまだわからない。

「……悟天……父さんもうどこにも行かないぞ……ずっとオメエ達と一緒だ」
「……ホント?」
「ああ、ホントだ!!」

 悟空はそう宣言して悟天を抱く力を強めた。

「おとうさん大好きっ!!」
 悟天は悟空の太い首に縋り付いて頬擦りした。

「父さんも悟天が大好きだぞっ!!」
 そう言う父の目に少し涙が浮かんでいたのを、悟飯は見逃さなかった。


 母はただ微笑んで、事の成り行きを見守っている。

 そしてチチが「やっぱり兄弟だべな。」と本当に小さい声で呟いたのが、悟飯にはかすかに聞き取れた。

(何となくだけど、お母さんには全てお見通しだったんじゃないかな……?)
 
 昔の悟飯の話のあたりから気付いていたのでは?悟飯にはそう思えた。

(あの時の僕と似てるもんね……というより、あの時の僕と同じなんだ……)

 一緒に新年を迎える事でまた同じ年を過ごせる。そう思った。

 悟天も今、そう思っている。

(兄弟……なんだよな)

 悟飯はそれが無性に嬉しかった。

 父が遺してくれたこの弟。この存在が自分の生きる糧だった。
 父の温もりを知らずに育ったこの弟。今はこんなにも父に甘える事が出来る。

 家族4人で迎える初めての新年。

「ほら、もうすぐ年明けだべ」
 時計と見ると11時59分。
 あと1分で新年を迎える。

「あと1分くらいは悟天だって起きてられるよな?」
「起きてられるよ!!」

 茶化すように言う悟空に悟天は膨れながら言った。
 
 チチと悟飯はそんな瓜二つな親子を微笑みながら見ている。

 そして、時計は0時を指す。

「おとうさん、明けましておめでとう!!」
「おめでとう、悟天」

 嬉しそうに言う悟天に、悟空はニッコリと笑って返した。

「おめでとうございます、お父さん、お母さん、悟天」
「おめでとう」
「おめでとう、悟飯、チチ」
「おめでとう!!」

 家族は新年の挨拶を交し合った。

「今年もいい年になるといいですね」
「そうだな」
「なるべ」
「なるよね!!」


 家族揃っての新年。初めて迎える新しい年。


 お父さんが帰ってきた去年。大変だったけど幸せだった。

 今年はもっと、もっと幸せになると信じて。

 ……We wish a new year……


 end

→あとがき
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ