リクエスト・捧げもの
□the first step
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お互いがお互いのものだと、
信じられるにはまだ何かが足りない。
チチと暮らし始めて2ヶ月。
悟空はずっとチチが怖かった。
チチに触れられると胸の奥がチクチクして、自分でも抑えきれない動悸に苛まれた。
チチに触れると自分の中の何かが爆発して、チチを壊してしまいそうで怖かった。
でもやっと自分の胸の内を晒して、チチを抱き締めた。
やっと、心が通じ合ったと思った。
朝目覚める。
先程までグッタリと寝入っていたチチの姿がもうない。
結婚してずっとチチと同じベッドで寝ていたのに、初めて、夕べ初めて一緒に寝たような気がした。
ずっとずっと自分が悪かったのだ。
チチが好きなのに、どうしていいかわからなくて、チチを不安にさせていた。
でも、悟空も不安だった。お互い、お互いを思いすぎて不安だった。
キチンと畳まれた道着に着替え、悟空はチチがいるだろう台所へと赴く。
やはりチチはそこにいた。
チチがいるだけで明るく感じるこの空間。
悟空は何だか嬉しくなった。
「あ、おはよう、悟空さ」
悟空の気配に気付き、チチが振り返って言った。
「……オッス」
心なしかチチの頬が色付いて見えるのは気のせいではないだろう。
きっと自分も赤くなっている。
だって顔が熱を発しているかのように熱いから……。
悟空はそう思い、顔を擦る。
夕べ初めて、お互いがお互いのものになった。
どうして怖がっていたのだろう?どうしてチチが壊れると思ったのだろう?
こうなる事でチチは壊れないし悟空も何も失わない。
それどころかお互いにお互いを得る事が出来たのに、悟空にはそれがわからなかった、いや、認めようとしなかった。
でも、お互いがお互いを得て、チチに対するこの思いはもっと大きくなった。
「ほら悟空さ、早く顔さ洗ってきてけれ。飯にするだよ」
昨日までとは少し違うチチの発する雰囲気。
少女と言ってもいいチチだったが、今のチチは少し大人びたような……そう感じた。
それはきっと夕べの事があったからで、悟空はそう思うと顔の火照りが酷くなったように思えて、慌てて顔を洗いに洗面所へと駆け込む。
バシャバシャと乱暴に顔を洗う。まるで火照った顔を冷やすように、何度も何度も水を被る。
やっと火照りが取れたように思えて顔を上げると、鏡に見知らぬ男が映っていた。
(誰だ?)
でも一瞬でわかる。それは自分の顔。
なんだか違う男に見えた。
でもきっとそれは気のせいなんかじゃないだろう。
確かに昨日の自分とは違う。
チチが違って見えたように、自分も違って見える。
それだけ、自分達は得たものが多いのだろう。
悟空は少し大人びた自分の顔に誓う。
チチは自分のもので、自分はチチのものだ。自分は何があってもチチをこの身に代えても守るのだと。
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