リクエスト・捧げもの

□the first step
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「ひゃー美味そうっ!!」

 食卓に戻り美味そうな朝食を目の前にすると、いつもの悟空に戻ってしまう。

「フフッ早く食うべ」

 チチは優しげに微笑んだ。


 暖かな湯気の向こうに見えるチチを眺めながら食べる朝食はいつもと同じなのに、今朝は何かが違う。

 そこにあったはずの壁が無くなったのに、妙なぎこちなさがある。

 チチの一挙一動が気になる。

 その小さな手が、その白い肌が、その大きな黒い瞳が、そのぷっくりとした唇が、全てが気になって仕方がなかった。

 それでも、チチが優しく微笑むから、悟空の頬も自然と緩む。


「悟空さ、おかわりは?」
「あ、ああ」

 茶碗を渡そうとした時、チチのその小さな白い手に悟空の手が触れた。

「「あ……」」

 二人して固まる。 


 その時間はほんの一瞬だっただろう。でも二人にとっては果てしなく永い時間のように感じた。

 どちらからともなく手が離れ、茶碗が落ちた。

 割れずに済んだがその音で二人して驚いた。

「す、すまねえっ!!」
「大丈夫だか悟空さっ!!」
「オラはなんともねえ。オメエは?」
「おらも大丈夫だよ」

 真っ赤な顔のチチの顔。

 それに釣られるように悟空の顔赤くなる。


 チチは慌てて茶碗いっぱいにご飯を盛って悟空に渡した。

 悟空も顔の火照りを誤魔化すようにご飯をかき込む。


 その後、悟空はどうやって朝食を食べたかあまり覚えていない。

 ただ、少し手が触れただけなのに無性にチチに触れたくなった。

 悟空はその事だけで頭がいっぱいになってしまった。


 朝食後、修行へ行こうと悟空が立ち上がると、チチ何やら大きな包みを抱えてきた。

「はいお弁当」
「サンキュ……」

 その大きな包みを受け取る。

 それだけでも嬉しいのに何か無性に足りないような気がして、悟空は呆然としてしまった。

「悟空さ?」

 チチがその大きな目で覗き込んできた。

 その大きな目に吸い込まれそうな感覚に陥った時、悟空は自分が足りないと思っていたものが何か気付いた。

 チチの細い肩に手をかけ顔を近付けた。そして、そのふっくらとした唇に口付けた。


 触れるだけのキス。


 だけど、すごく満たされたような気持ちになった。

 真っ赤になって立ちすくむチチを尻目に、悟空は照れ隠しのように「行ってくる!!」とだけ叫んで筋斗雲に飛び乗った。





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