リクエスト・捧げもの
□the first step
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夕べ触れたチチも、さっき触れたチチの唇も、自分がどうにかなってしまうかと思うくらい柔らかくて、自分を虜にしてしまう。
(ヤベエ……癖になる……)
筋斗雲の上でそんな事を思っているのに、どうして落ちないんだろう?
自分はエッチになってしまったのかも知れないのに。
(なんでかな?)
亀仙人のじっちゃんみたいにエッチで、クリリンみたいに女に興味があるヤツは乗れなかった。
自分だってこんなにチチの事が好きで、さっきみたいに、夕べだってチチにエッチな事をしたのに、何故か純粋な人間にしか乗れないこの雲に乗れている。
悟空はそんな事を考えながら筋斗雲で飛んでいた。
チチは食器を洗いながら夕べと、そして先程起こった事を考えていた。
(やっと、悟空さのお嫁さなれた)
嬉しくて仕方がない。ちょっと辛かったけど、やっと本当に悟空のものになれたという嬉しさの方が先行する。
さっきだって悟空の方からキスをしてくれた。
昨日まで自分に触れようともしなかった悟空だったのに、自分の方からキスしてくれるなんて……。
チチは幸せの絶頂にいた。
(でも……)
恥ずかしくて悟空の顔がまともに見れない。
いつまでも治まらない顔の火照り。
考えれば考えるほど、顔の火照りは酷くなるようだった。
いつもの修行場にやってきても修行に身が入らない。
どうしてもチチの事を考えてしまう。
この間もチチの事を考えすぎて修行に身が入らなかったけど、今日はちょっと違う。
チチの事を考えて胸が躍る。ウキウキする。
そして顔が熱くなる。
でも同時に訪れる胸が苦しくなるような感情。
チチの事を考えると、どうしてこんなに理解不能な感情に苛まれるのだろうか?
こんなにも自分以外の人間の事が気になった事はなかった。死んだ祖父に感じていた感情とはまた別の感情。
気が付くと日は随分と傾いていた。
慌てて筋斗雲を呼び飛び乗る。
よかった、まだ乗れている。
やはり自分は穢れたわけではないようだ。
悟空は安心して筋斗雲を飛ばす。
家の上空まで来ると薄暗い山の中に窓から洩れる明かり。それだけで、チチがそこにいると実感できて心が躍った。
「たでえま」
玄関を開けると夕餉のいい匂い。
「おかえり悟空さ。風呂さ沸いてるから入ってきてけれ。上がったらすぐに飯にするだよ」
「おう」
そう言い、着替えとバスタオルを受け取り風呂場へ行く。
とにかくちゃんと身体も洗って髪も洗う。
帰ったら手洗いうがいも忘れない。
チチと結婚して躾けられた事。
最初は面倒だったけど、それでチチが喜ぶなら構わねえかと思う自分もいて。
早々に風呂から上がり食卓へ行く。
「ちゃんと髪も洗っただな」
チチはそう言ってニッコリと微笑む。悟空はその顔を見るとまた胸の中で何かが蠢くような感覚に陥ったが、とにかく飯が先で、夕餉を目の前にすると途端に忘れてしまった。
それでも何となくだけど、朝よりもぎこちないように感じた。そう言えば帰ってからチチと目が合っていないように感じた。
とりあえず飯を食う事だけに集中しようと悟空は努めたが、やっぱりチチの事が気になって仕方がない。
そしてチチがあまり食していない事にも気付いた。
「なあチチ」
「何だベ?」
少しぎこちなく、二人の会話が始まった。
「オメエ、あんま食ってねえんじゃねえか?」
「そんな事ねえだよ」
そう言うチチはやはりあまり食べていないように思う。
チチはチチで、何だか胸がいっぱいで食事も喉を通らない。
自分が作った料理を美味い美味いと嬉しそうに食べる悟空の姿が嬉しくて、そしてまた迎えてしまった夜に緊張してしまって……。
「そっか?」
悟空はそう言うとまた食べる事に集中しようとする。
でも本当はチチの事が気になって仕方がないのに。
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