リクエスト・捧げもの
□Cold day and warmth
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「悟空さ。具合はどうだべ?」
寝室へお粥を持ってきたチチはベッドで寝込んでいる悟空に声をかけた。
「……う〜ん……まだダリい……ボーっとすっぞ……」
そう言って気だるそうに目を開けた。
「お粥、食えるだか?」
「食う」
熱が出ても食欲はあるだな、と胸中で苦笑してベッドの脇に座る。
悟空は枕を背に座り、
「あ〜ん」
と口を大きく開けた。
「……まただか……?」
チチは呆れて言えば、
「おう!!」
と病人とは思えない元気な返事をする。
発熱で真っ赤な顔をしながらもウキウキと口を大きく開けてチチがお粥を食べさせてくれるのを待っている悟空に、チチは「はあ……」と大きく嘆息し、その口にお粥を運ぶ。
そうしてやると実に美味そうにお粥を食べるのだ。
悟飯は悟天を悟空の傍に近付けたくないのは単に風邪が伝染ると大変だと純粋に思っている。それに悟天を近付けては悟空がゆっくり療養できないのでは…と危惧している。
しかし、チチが悟天を悟空の元に近付けたくない理由はそれと共に今の悟空の状態にある。
悟空は寝込むと途端に甘えてくるのだ。それも箍が外れたように。
それは死ぬ前からで、普段病気などしないものだから一度寝込むと始末が悪い。
食わせてくれやら、ずっと傍にいろやら、挙句添い寝しろやら……。
生き返ってからは普段から甘えるようになったが、そんなものは比にならないくらい甘えてくる。
そんな父親の姿を見せるわけにもいかず、チチは伝染すると大変だからと悟天(昔は悟飯)に言い聞かせてきた。
「それにしても今回はちょっと酷そうだべな?」
すっかりお粥も食べ終わり、苦いから嫌だと拒否した薬も無理矢理飲まされ横になっている悟空から体温計を受け取りチチは言った。
「ん〜……風邪なんか何年振りかってくれえだし……あの世じゃ風邪なんかひかねえかんなぁ……」
いつも以上に熱が引かない。見た目以上に酷いらしい。
「お医者さ呼んで、注射打って貰った方がいいべか……?」
「ぜってーヤダッ!!」
小声で呟くも悟空にはしっかりと聞こえていて……。真っ赤な顔で叫ぶ悟空。
「一発で良くなるべ?」
「注射だけはヤダかんなっ!!」
はいはいと嘆息しながらも、
「明日までに熱が下がらなかったらお医者さ呼ぶだよ」
と告げ、チチはその場を後にしようとした。すると、
「どこ行くんだよっ!!」
と、ベッドの悟空が呼び止めた。
「どこって、家の用事もしなきゃいけねえだよ。ちゃんと家の中にいるから安心してけろ」
「……ちぇっ……」
「もう……子供でねえんだから……仕方がねえ旦那様だべ」
チチはそう嘆息しつつも、寝ている悟空の乾いた唇に軽くキスをして、「今はこれで我慢してけろ」と少し赤い顔で寝室を出て行った。
一人残された悟空は普段なかなかチチからはして貰えないキスに心が躍ったが、そのうちだんだん何とも言えない寂しさに襲われた。
静かな部屋でチチの家事をする音を聞く。
寂しかったけれどそこにはチチがちゃんといると実感でき、安心感と熱のせいで少し微睡んできた。
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