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□空を見上げて (DB)
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空を見上げて vol.12


「あ……」
「どしたの? にいちゃん」
「今、ピッコロさんが降りてきたよ」

 悟飯は勉強の最中にピッコロの気を感じ取り、地上に降りてきたのがわかった。

「ピッコロさん、ちかくに来てるの?」
「うん。最近ずっとパオズ山の奥の湧き水に来てるみたいだね。前からお気に入りだったから」
「じゃああそこにいたらピッコロさんに会えるの?」
「絶対にとは言えないけど……」

 子供部屋で寝転がってクレヨンで絵を描いている悟天は、下から悟飯の顔を見上げている。

「会いたいの? なら神殿に連れてってあげようか?」
「ううん。いいの」

 悟天は微笑んで首を横に振り、再び絵を描くことに集中し始めた。

 足をバタバタとバタつかせ、楽しげに絵を描いている。

 どうしたというのだろうか。ピッコロさんに会いたいのかな?

 悟飯はそう思いながらも、再び勉強に集中した。

 次の日、悟天は昼食を終えると早々に玄関から飛び出す。

「悟天っ、どこ行くだかっ?」
「遊びにいくの」
「あんまり遠くに行くでねえよ」
「うんっ!!」
 
 元気な返事を残し、悟天は駆けて行った。


 3時のおやつの時間になっても悟天は戻って来ない。

 さすがのチチも心配になり、玄関の外でウロウロしている。

「お母さん、悟天帰って来ないの?」
「そうなんだべ……悟天も悟空さの子だから多少のことは大丈夫なんだろうけど、まだ小さいから……」

 母の顔は心配の色が色濃く出ている。

「僕、探してくるよ」
「頼んだぞ」

 まだ幼い弟であるし、何より父の忘れ形見だ。悟飯も目の中に入れても痛くないほどに可愛がっている弟なので、それがいくら父の子であろうと心配で堪らなくなった。

 飛び立とうとしたその瞬間、

 上空から誰かが降りてくるのが見えた。

「あれ?……ピッコロさん?」

 見ればそれは悟飯の師匠であるピッコロだった。

「……え……悟天っ!? どうしてっ!?」

 ピッコロの腕には悟天が親指を咥えて小さな寝息を立てていた。

「そこで寝ていたから連れてきた」
「ピッコロさん、すみません。お世話になっちゃって」
「そんなこと今更だ」

 申し訳なさそうな悟飯に仏頂面で答えるピッコロだが、それがピッコロの何気ない優しさということも悟飯は知っている。

「悟天ちゃんっ!!」

 家の中からチチが慌てて駆けてきた。

「悟天ちゃんっ、どうしただかっ!?」
「眠りこけてたところをピッコロさんが見つけて連れて来てくれたんだ」
「そりゃ迷惑かけたべなぁ。ありがとうな、ピッコロさ」
「……いや」

 申し訳なさそうにチチが言うと、ピッコロも逆に身の置き所が無さそうにした。
 何せピッコロにとってチチは少し苦手な人間だからだ。

「悟飯。悟天を布団で寝かせてけれ」
「はい」

 悟飯はピッコロから悟天を受け取ると、そのまま抱いて家の中に入って行った。

 それを見送るとチチは静かに口を開いた。

「……ピッコロさ……本当のこと、教えてけろ」
「……何のことだ?」
「悟天だべ。ピッコロさに会いに行ったんだべ?」
「……わかっていたのか……」
「おらあの子たちの母親だべ。それくれえのことくらいわかるべ」

 チチにはお見通しだった。そしてピッコロに向き合い、言った。

「悟飯にも黙って行ったってことは、悟天なりに悟飯に聞かれちゃマズイって思ったってことだべ?」
「……ああ」

 ピッコロはチチの言葉に頷く。

「それで、悟天は何を聞きに行っただか?」
「……あの世はどこにあるのか聞かれた」
「……そうだか……」

 チチはフウと小さく溜息を漏らした。

「驚かないのか?」
「……そんなことだろうと思ってたべ。おらたちに聞かねえのは悟空さのことだべ」
「……」
 苦笑し、そう言うチチ。ピッコロは言葉を紡げなかった。

「悟空さのことは聞かれれば答えるし、多少のことは教えてるけんど……」

 チチは眉根を寄せた。

 そんなつもりはないと思っていても、悟空のことを聞かれて答えるときに多少の心の痛みはある。
 たくさん教えてやりたいと思うと同時に、この子を父親に会わせてやったことがないんだという、懺悔にも似た気持ちが芽生える。

 その気持ちは悟飯の方が大きいようだ。
 どんなにお前のせいじゃないと言っても、悟飯は自分が悟天から父を取り上げてしまったのだと心のどこかで思っている。

 だから悟天に父のことを聞かれたとき、悟飯には僅かではあるが動揺の色を見せる。
 どんなに取り繕って父のことを話しても、その動揺を悟天は気付いているようだ。

 そんな兄を見るとなんだか悪いことを口にしたような気持ちになって、悟天も聞き辛くなったのかも知れない。

「……」
「まだ小せえって思っても、いろいろ考えてるんだべなぁ……」
「ああ……」

 あの世への行き方。そんなことをまだ4歳になったばかりの悟天が考えていたことに少しの驚きもあり、しかし、父恋しさからそんなことを考えていたことにいじらしさもある。

「それで、何て答えてくれただか?」
「……行き方を聞かれたが、行けないと。そのうち会えると言っておいた」

 そう言うと、チチは困ったような顔をして、

「すまねえなぁ……おらが上手く答えてやれねえから……」

 と言った。

「いや、神殿にいるオレなら知っていると思ったんだろう」

 ピッコロが先代の神と同化したことは悟天は知らないが、どこかしらそう感じさせる雰囲気を無自覚に感じ取っているのかも知れない。

「……それで……悟天は納得しただか?」
「ああ。ああいうところは悟空の子だな」

 ピッコロは意地の悪そうな顔をして笑ってみせると、

「単純だべな。わかんねえことも多いが説明すりゃ何でも大概は納得するべ」

 チチもケラケラと笑いながら言った。

「ああ、本当によく似ている。会う度に似てくるな」

 思わず感慨深く呟く。かつての敵であったが、気が付けば仲間になっていた男の顔。それに生き写しのような子供の顔。

「だべ? 悟飯もよく似てるんだけんど、悟天は生き写しだべ。でもな……」

 チチは微笑みながら空を見上げる。

「誰かが悟空さの生まれ変わりだって言ってたけんど、おらはそうは思わねえだよ」

 そしてピッコロに視線を向けた。

「悟天は悟天。悟空さの二人目の子ってだけだべ」
「……そうだな」

 ピッコロとチチは空を見上げた。

 この空の、もっと向こうにいる悟空の姿を思い浮かべて。

 悟空は悟空。悟天は悟天。

 悟天は悟空の、二人目の息子なのだ。

 ただ慈しんで、大切にして、その成長を見守っていく。

 ただ、それだけ―。


 end
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