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□空を見上げて (DB)
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空を見上げて vol.13
思いがけない終わりだった。
修行三昧で闘うことが何よりも好きだった自分が、病気で死んだ。
病気とわかってから、自分の身体がいうことを利かなくなるまでそんなに時間を有さなかった。
何でオラがっ!? そう叫びたかった。
でも、夜中に寝覚めて見てしまった妻の顔。月明かりに目を伏せて、声を殺して泣いている顔。
自分に気取られまいと、深夜に声を殺して泣く姿。
そして感じた息子の気。妻と同じように、声を殺して泣いていた。
胸が痛くなった。こんな自分のために泣いてくれる家族。
辛くなると同時に嬉しくも思う複雑な感情。
昼間、自分が起きているときは妻も息子もいつも通りで、妻に至っては時々お小言もくれて。
あんなに苦手だった妻のお小言が、このときばかりは嬉しくも感じて。
泣き虫だった息子もまだ十歳にも満たないのに自分の代わりに食料調達の狩りにも行ってくれて。
自分とは違い、日増しにその身体が逞しくなっていくさまに嬉しくもなった。
ある日、妻に言った。
『すまねえな…こんな身体になっちまって……』
すると妻は、
『何言ってるんだべ? 悟空さがそんなことでどうするだ? おめえ今まで突っ走りすぎたから、ちったあ家にいろってことなんだべ。そんでゆっくり身体さ治して、治ったらいっぺえ働いて貰うからな』
胸を張り、腰に手を当てて、その大きな瞳を吊り上げて言った。
『フリーザとか言うすっげえ悪いヤツも倒したんだろ? そんな悟空さがこんな病気なんかに負けるわけねえべ?』
『フリーザをすっげえ悪いヤツって……確かにそうだけど、オメエにかかっちゃフリーザも形無しだなぁ』
『悪いヤツはただの悪いヤツだ。それ以外何でもねえべ』
そう胸を張って言う妻に思わず噴出した。
そして二人して笑った。
何だか病気も倒せそうな気がした。
病気になって家族のありがたみを感じた。こんなときにか?と自分で苦笑すら出た。
しかしあの日、自分は旅立った。
強気だけど本当は弱い女である妻を置いて逝くことは心残りだったけれど、息子がきっと妻を守ってくれる、そう思えたから、そんなにも不安ではなかった。
「笑っておるぞ」
「誰が?」
「お前の妻と息子じゃ」
あの世に来て、修行のために来た界王星で界王様が言った。
「笑ってんのか?」
泣き暮らされては堪らなかったから、笑ってると聞いて安心した。
「おお。お前の悪口でも言って笑ってるんじゃないか?」
「ひっでえや」
口でそう言うも本当は嬉しい。例え悪口でも、忘れられていないことが。忘れていなくても、泣き暮らしているわけじゃないことが。
思わず顔が綻んだ。
「お前……悪口言われて喜ぶとはマゾか?」
「マゾって何だ?そういや昔、チチにも言われたけど何なんだ?」
「まあ、知らぬ方がいいってこともあるぞ」
「それってロクなもんじゃねえってことだな」
つまらない振りをしてみても、きっと界王様にはお見通しなんだろうけど。
「でもまあ……よかったのう」
「ああ……」
界王様と並んで、空を見上げる。
悟飯……オメエはもっと強くなる。ぜってえにオラを超えてくれ。母さんを頼むな。
チチ……ケッコンしてから苦労をかけっぱなしだった。でもオメエがいたからオラ、一端の父親にもなれた。全部、オメエがいたからだ。
この思いが、家族の元へ届くように。
「大丈夫だぞ。ちゃんと伝わっているだろう」
「……ああ」
何もかもお見通しのようだけど、別に構わないかと思う。
きっとこの思いは届いている。
空を見上げ、家族の顔を思い浮かべた。
end