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□空を見上げて (DB)
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空を見上げて vol.1
広く、蒼い空を見上げる。
この空は、あの人によく似ている。
届きそうで届かない、まるであの人のようだ。
「今日もいい天気だべなぁ……」
誰に言うともなし、チチは呟いた。
限りなく青い空には雲ひとつなく、雨なんて降ることもないだろう。
チチは洗濯籠を抱えて庭に出て、白いシーツを物干し竿に広げた。
天気がいい上に少し風もある。今日は洗濯物がよく渇くことだろう。
洗濯物を干し終わると家の裏の家庭菜園へと赴いた。
家庭菜園と言ってもほとんど畑というような規模で、これくらい無いと大飯食らいの親子の腹など満たせない。
畑の手入れをしながらふと空を見上げた。
「……悟空さ……どこにいるんだべか……」
遠い宇宙のどこかにいるという夫。
修行にかまけて帰って来ないことは何度もあったけれど、今は宇宙まで行ってしまってしばらく帰って来れないらしい。
死んでしまったこともあった。
しかしこのときは1年後にドラゴンボールで生き返ると言っていたが、今回はいつ戻って来るかわからない。
「ホント、とんだ放蕩亭主だべ……」
チチは苦笑した。
しかし、その顔はすぐに憂いを帯びた顔へと変わった。
夫の師匠が言った一言。
『嫁が怖くて戻って来ない』
本当にそうなんだろうか?
空を見上げながら、この空のどこかにいるだろう夫に声をかける。
おらが嫌いで帰って来ないの?
そんなことは杞憂に過ぎないとわかっている。だけど、どこかでそうなのかも知れないと思っている自分もいる。
幼い頃の約束を持ち出して、半ば強引に結婚させたのは自分だ。そのくせいつもガミガミと怒鳴り散らして、そんな自分に辟易しているのかも知れない。
本当は、好きでも何でもないのかも知れない……。
そんなことを考えてしまったチチは頭を振った。そんな考えなど振り払うように。
そうだ。孫悟空の妻でいられるのは自分だけ。どんなに薄情で、どんなに放蕩亭主でも、そんな夫をずっと待っていられるのは自分だけ。
チチは空を睨みつけるように見やる。
「今回は待っててやるけんど、次はねえだぞ」
果たして夫にこの思いが届いているのか。
きっと届いていないだろうな、と、ほとんど諦めにも似た気持ちで。
チチは今日も空を見上げる。
この空の向こうの、どこかにいるだろう夫に向かって、ほんの少しの恨みと、そして限りなく愛しい気持ちを込めて。
end