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□空を見上げて (DB)
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空を見上げて vol.4


「あ……」

 修行の合間、ふと妻の顔が頭に過ぎることがある。

「チチ……元気かな?」

 悟空はゴロンと寝転び、ピンク色の空を見上げる。

 死んで界王星に行ったときも、宇宙に行ったまま帰らずに修行していたときも、時々こうしてチチの顔が頭を過ぎって集中できなくなることがあった。

 チチの顔を思い出すと、どうしようもない焦燥感に駆られるのだ。


 もう少し待っててくれ。必ず帰るから。


 界王星でも宇宙でも、そう心に誓って再び修行に集中した。


 でも今度は、そうもいかない。


『今度は待たねえぞ』

 宇宙から帰ったとき、腰に手を当てて、その大きな黒い瞳を吊り上げて。

 そう言った妻の姿を思い出し苦笑する。

 次に会えるのはいつだろう。アイツが死んだときだろうか?

 もう待たない、と言ったけれど、自分はもう奇跡が起こらない限り生き返れないのだから、チチも待ちようもないだろう。

 ならば今度は自分が待とう。

 いつも待たせてばかりで。チチにとっては本当に薄情な夫だっただろうと思う。

 悟空は苦笑したが、すぐにその顔は憂いを帯びたものへと変わった。

 次に会えるのはいつだかわからない。

 すぐかも知れない。果てしなく永い時間の先かも知れない。

 どんなに途方もない悠久の時であろうと、それでも待とうと思った。


 悟空はピンク色の空を見上げながら二人で飛んだ空を思い出した。

 あのときの空は青かった。こんな、ピンク色などしていなかった。

 青くて、ただ、ひたすらに青くて、空の色と海の色が同じで。

 そして背中の温もりを感じて。肩にかかる吐息がくすぐったくて。

 それから自分の膝の上にも温もりを感じるようにもなって。

 幸せだった。ずっと独りで生きてきたのに、家族を得て。常に温もりを感じて。

 だけど、そんな幸せを自ら手離したようなものだった。


 悟空はピンク色の空を眺めながら思う。


 いつか、あの青い空を飛ぶことを許されたのなら。

 必ず、あの温もりを感じて飛ぼうと。


「よしっ!!」

 悟空は身体を起こし、立ち上がった。

「もいっちょやっか!!」
 
 そして修行を再開させた。


 きっと会える。

 きっとまた会える。

 そう信じていれば、きっと―。



広く、青い空を見上げる。

この空は、あの人によく似ている。

届きそうで届かない、まるであの人のようだ。

でもその想いはきっと。

届いているから―。


 end
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