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□空を見上げて (空飛ぶ広報室)
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空を見上げて(空飛ぶ広報室)vol.1
取材に出ようと局の外へ出るとそこにはリカさんの姿。
彼女は空を見上げている。
それは寂しそうに。
リカさんは空自の旦那様と遠距離別居中。月に数度しか会えないそうだ。
先週末も仕事で忙しかったからひょっとしたら会えなかったのかも知れない。
リカさんと旦那様の空井さんはお互いに惹かれ合っていたのに組織という足枷のお陰で半年も離れていた挙句、震災で再び離れることになってしまった。
そんな二人が再会して、すぐに結婚を決めて。
本当に運命の人だったんだなあ……なんて思い知らされた。
少しでも細マッチョの空井さんをゲットする!!なんて息巻いていたのが恥かしい……。
切なげに空を見上げるリカさんの姿にこちらも切なさが込み上げてきた。
そして思いついたことがあってスマートフォンを取り出した。
スマートフォンを構え、その思いついたことを実行し、メールをする。
「送信、と」
宛先は藤枝さん。
藤枝さんにある任務の遂行を依頼した。
まだ空を見上げたままのリカさん。そろそろ現実に戻してあげないと。
もう一度スマートフォンを構える。
「激写っ!!」
そう言ってスマートフォンをタップする。
するとリカさんが何事かと振り返った。
「なにっ!?」
「すっごく可愛いリカさん、スクープしました!!」
「はあっ!?」
酷く怪訝な顔のリカさんにスマートフォンを見せる。
空を見上げている寂しそうな自分の姿にリカさんは目を見開いた。
「何よこれっ!?」
「あんまり可愛いんで撮っちゃいました」
「はあっ!?」
激写されていたことも気付かなかったリカさんは驚きで目を見開いたまま。
そして私の企みを暴露する。
「これ。空井さんに送っちゃいましょ」
「何言ってんのっ!?」
「『寂しいです』ってメッセージ付きで」
「何考えてんのよっ!?」
私の突飛な発言にリカさんは驚きに目を見開いている。
「私が送るのもなんなんで、藤枝さんにお願いしちゃいました」
「お願いしちゃいました……って過去形じゃないっ!? まさかっ……」
「もうお願い済みです」
さっき藤枝さんにお願いしたこと。
それはこの写メを空井さんに送って貰うこと。
私が送っても良かったんだけど、変にこじれちゃっても困るし。
だから男性である藤枝さんにお願いした。
「いつの間にっ!?」
「リカさん、結構な時間ボーっとしてましたよ」
それはそれは寂しげに。
「ウソッ!?」
リカさんは更に目を丸くした。
「五分くらい?」
「そんなにっ!?」
「は、言いすぎですけど、その間に藤枝さんにメールしてお願いするくらいの時間はありましたよ」
「……本気なの……?」
「本気ですよ。あ、藤枝さんからだ」
スマートフォンの着信が鳴って見ると藤枝さんからのメール。
『ラジャ!! てかもう送っといた。こんなカンジで』
それと転送メール。
『寂しいです。すごく会いたい』の文字とさっき激写したリカさんの姿。
「ほら」
メールを見せるとリカさんは絶句した。
「藤枝さん、イイカンジですねーっ」
「どこがっ!?」
「もう遅いですよ。送っちゃってるんですから」
フフフと笑うとリカさんは真っ赤になった。
そして何かを言おうとしたとき、リカさんは何かに反応してポケットを探った。
取り出したのはスマートフォン。
リカさんは慌てて操作すると、その顔は一瞬にして先程以上に真っ赤になった。
そして幸せそうに画面を見つめて胸のあたりの服を掴んだ。
愛しの旦那様からのラブメールかな?
だとしたら私の企みも役に立ったのかも。
「私のおかげ、ですか?」
ニヤッと笑みを浮かべるとリカさんに睨みつけられた。
あ、ヤバイ、怒らせた?
「珠輝〜……」
ハハハと笑い、後退るとリカさんはジワジワと近付いてきた。
「残業で編集作業させるわよーっ!!」
「今晩は大津くんとデートなんですっ!! 許して下さいっゴメンなさーいっ!!」
追いかけてくるリカさんから逃げる。
追いかけてくるその人の顔は『ガツガツの稲葉さん』そのもの。
何だか安心した。
リカさんは私に仕事の楽しさとやりがいを教えてくれた人だ。
『場が人を育てるんだって』
リカさんはかつてこんなことを言った。
『上司や先輩や同僚が真剣に仕事してるのを見て、自分も頑張っちゃうって言うような』
私もリカさんのそんな姿に自分も頑張ろうって思えるようになった。
『人の想いが人を動かす』
リカさんを見ていて、その意味がよくわかった。
それ以来、リカさんは私の目標だ。
以前は楽してお給料が貰えるならそれでいいって思っていた。
でも今は私もリカさんのようなディレクターになりたいって思えた。
だから私は『可愛い新妻だけど寂しげな空井リカさん』や『ガツガツで負けず嫌いな稲葉リカさん』よりも、『可愛くてガツガツな空井リカさん』でいて欲しいと思う。
追いかけてくるリカさんから逃げる。
でもリカさんは笑ってる。
するとリカさんは急に立ち止まって空を見上げた。
私もそれに倣い、一緒に空を見上げた。
『空は繋がってます』
リカさんの口癖。
本当ですね。空には境目なんてない。
どこまでも広がる空を見上げながら、その意味を感じていた。
end