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□空を見上げて (空飛ぶ広報室)
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空を見上げて(空飛ぶ広報室)vol.4


「いい天気〜」
 
 局の外へ出ると空を見上げる。
 こうして外へ出た瞬間、必ず空を見上げるのはほとんど癖みたいなものだ。

 今日みたいないい天気の日でも曇り空でも雨の日でも。
 空はいつだってそこにある。

 そしてこの空の向こうには旦那さま。
 今は離れて暮らしているけど、この空が繋がっている限りいつも一緒。

 でも時々、空を見上げているだけで寂しくなる。

「……会いたいな……」
 つい呟いてしまう。

「激写っ!!」
 斜め後ろからそんな声が聞こえてそちらを向くと、スマートフォンを構えた珠輝がいた。

「なにっ!?」
「すっごく可愛いリカさん、スクープしました!!」
「はあっ!?」

 珠輝は不適な笑みを浮かべてスマートフォンを見せてきた。

 覗き込むとそこには空を見上げている自分の姿。
 それは何だか寂しそうだった。

「何よこれっ!?」
「あんまり可愛いんで撮っちゃいました」
「はあっ!?」

 全く気が付かなかった自分も情けないが、この後輩は意外と抜け目ない。

「これ。空井さんに送っちゃいましょ」
「何言ってんのっ!?」
「『寂しいです』ってメッセージ付きで」
 珠輝はドヤ顔で言った。
「何考えてんのよっ!?」
「私が送るのもなんなんで、藤枝さんにお願いしちゃいました」
「お願いしちゃいました……って過去形じゃないっ!? まさかっ……」
「もうお願い済みです」
 その顔は先程以上にドヤ顔。
「いつの間にっ!?」
「リカさん、結構な時間ボーっとしてましたよ」
「ウソッ!?」
「五分くらい?」
「そんなにっ!?」
 まさかっ!?
「は、言いすぎですけど、その間に藤枝さんにメールしてお願いするくらいの時間はありましたよ」
「……本気なの……?」
「本気ですよ。あ、藤枝さんからだ」

 珠輝のスマートフォンの着信音が鳴った。

「ほら」

 珠輝がスマートフォンを見せてきた。

『ラジャ!! てかもう送っといた。こんなカンジで』
 そこには転送メール。
『寂しいです。すごく会いたい』の文字と先程珠輝に激写された自分の姿。

「藤枝さん、イイカンジですねーっ」
「どこがっ!?」
「もう遅いですよ。送っちゃってるんですから」

 珠輝はフフフと笑っている。

 すると今度は自分のスマートフォンが震えた。

 夫からのメール。

『俺も寂しいです。こんなリカを見せられたらいますぐ会いに行きたい。でも週末には帰るんで待ってて下さい。愛してます。大祐』

『愛してます』の文字に思わず顔が熱を発したように熱くなり固まる。

 ああもう……何でこんなにキュンキュンすること言っちゃうの……。
 
 思わず胸のあたりの服を掴む。
 珠輝はそれを目敏く見て言った。

「私のおかげ、ですか?」
「珠輝〜……」

 ニヤッと悪戯な笑みを浮かべる珠輝を睨みつけた。

 それを見て逃げるように駆けていく珠輝を追いかける。

 でもまあ、送ってしまったものは仕方がない。
 それにこうして思いがけず夫の愛の言葉を頂いたのだから感謝すべきなのか……?

「残業で編集作業させるわよーっ!!」
「今晩は大津くんとデートなんですっ!! 許して下さいっゴメンなさーいっ!!」

 キャアキャア言いながら珠輝と追いかけっこ。
 こんなやり取りも結構楽しい。
 
 先程までの寂しい気分は夫の愛の言葉と珠輝のお陰で吹き飛んだ。

 後で夫にメールを送ろう。

『大祐さん。珠輝と藤枝にやられちゃいました。でも大祐さんから嬉しい言葉を貰えたから感謝かな?早く会いたいけど、大祐さんの言葉のお陰で週末まで頑張れます。私も愛してます。リカ』

 めいっぱい愛をこめて。

 立ち止まって空を見上げる。

 今日の空は限りなく青空だ。


 end
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