お題・英単語

□sweet-甘い-
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「あら?銀さん?」
「あ?お妙じゃねえか」
 銀時は仕事帰りの妙に出くわした。
「どうしたんですか?こんな時間に……って、またいちご牛乳ですか……」
 銀時の下げているコンビニ袋の中から見えているいちご牛乳を見て妙は小さく嘆息する。
「なんだよ、悪ぃかよ。糖分は俺の栄養みてえなモンだぜ」
「大袈裟ね。でも銀さん、そんなに糖分ばっかり取ってると死んでしまいますわよ」
「逆だな。糖分が無くなると死ぬな」
 銀時は顎を擦りながらさも当然という風に言った。
「そんなに糖分が必要なんだったら今日クッキーを焼いたから差し上げるわ」
 妙はそう言うと手提げ袋の中をゴソゴソとあさり出した。
「え?い、いや、それには及ばねえっ!!」
 銀時は慌ててそれを制止する。
「どうして?今日お客さんに配ったんだけど、皆さん泣いて喜んでたわよ?」
 キョトンと小首を傾げて言う妙の手の中には一応ハートと思しき形の真っ黒い……暗黒物質。
(いや……泣いたって意味、コイツが思ってるのと違うね絶対……)
「何かしら?」
 ニッコリと笑いながら言うが、その笑顔の後ろにどす黒いものが見えた……気がした。
「何でもないです……」
 少し目を逸らし、銀時は呟やく。
「ほら、余ってるんだから食べていいのよ。いちご牛乳よりは身体にいいはずよ」
「え……いや、その……(こんな暗黒物質が身体にいいわけねえだろっ!?食ったら死ぬわっ!!)」
「ほら銀さん、食べて」
 あーんと言わんばかりにその暗黒物質を銀時の口元まで持ってくる。
 傍から見ればイチャイチャしているカップルに見えなくもないが、当の銀時は大量の汗を掻き、身の危険、いや、命の危険を感じていた。
「ヒュー!!イチャイチャしやがってっ」
 案の定、酔っ払いに冷やかされるも、
「うっせーぞ!! この私がこんなマダオとイチャコラしてるワケねーだろ!!」
「ぐふっ!!」
 妙の手にあった暗黒物質は酔っ払いの口の中へ見事にジャストミートした。
「お、お妙さん?あの男、君のクッキー(らしきもの)口に押し込まれて泡吹いてますけど……」
 酔っ払いは卒倒し、その口からは何とも言えない黒い泡が吹き出している。
「気のせいです」
「気のせいじゃないんじゃ……うぐっ!?」
「いいから食えって言ってんだろ」
 新たに暗黒物質を取り出した妙は銀時の胸倉を掴み低音で凄む。
 一体どこからこんな力が出るのか。妙は銀時の胸倉掴み持ち上げる。すると妙の拳が丁度銀時の喉元に入り、首が絞まっているような状態で息が出来ない。
「お、お妙さん、苦しいです……」
「じゃあ食べるか?ひっく」
(ひっく?)
 銀時は苦しいながらもその顔を見ると、何だか赤らんでその目も据わっている。
 これはもしかして……。
「……あの……お妙さん、もしかして酔ってる?」
「酔ってません……ひっく」
「いや、酔ってるだろ」
 先程までまともに会話が出来ていたから気が付かなかったが、妙はかなり酔っているようだ。
 こんな深夜だから気を張って歩いていたが顔見知りの銀時に会って安心したのだろうか。すっかり酔いが戻ったようだ。
 そのうち銀時の胸倉を掴む力が緩んだ。
「ひっく、いいえ。酔ってませんひっく……でも、酔ってるとしたら貴方にだわ」
「え……?」
 縋るように銀時の着物を掴みトロンとした目でこちらを見上げている妙にそう言われると、銀時の心臓は一気に跳ねた。
(なに?この雰囲気……ちょっとヤバくね?)
 潤む瞳の引力か、銀時は自分でも驚くほど自然に妙に顔を近付ける。
 ……が。
「んなワケねえだろうがっ!!」
「へ?」
 途端、その目は先程の据わっている目(ちなみに変な光を発している)に変貌し、口元には不適な笑みを浮かべ、手の中の暗黒物質を振りかぶった。
「だから食えっ!!」
「だからって何っ!?……ひいっ!!」
 このとき、銀時の心臓は違う意味で大きく跳ねた。


 草木も眠る丑三つ時。

 かぶき町に得体の知らない男の叫び声が木霊した。

 その叫び声が聞こえた辺りには口から黒い泡を吹いて卒倒している二人の男と、そのまわりには何だがわからないハートの形をした黒い物体が落ちていたという……。


 end

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