お題・英単語

□true-本当の-
1ページ/1ページ


 チャイムが鳴った。

 電話を切ってから今まで、ずっと高鳴り続けたこの胸の鼓動が更に大きくなった。

 この扉の向こうには彼がいる。

『今から会いたい。会って直接告げたい』

 それがあたしが残したクリスマスカードに対する彼の答え。

 そしてあたしも―。

『……うん……あたしも……』

 カードの上だけではなく、自分の言葉で彼に告げたかった。
 彼にあたしの、本当の気持ちを。

『今から……すみれさんの家、行っていい?』
『……うん』

 そう返事をしたけれど、どうしていいのかわからなかった。
 ただ彼が来るまで、膝を抱えて待っていた。
 緊張でどうにかなりそうだったけれど、これは自分が望んだことだったから。

 玄関を開ける。やはりそこに立っていたのは彼で。

「すみれさん……」
 彼があたしの名を呼ぶ。
「……青島くん……」
 それが合図になったのか、彼の腕が伸びてきた。
 
 その瞬間、目の前が彼のコートの色でいっぱいになった。

 彼のタバコの匂いがすぐ傍でする。

 抱き締められている。

 いつものあたしならこんな暴挙は許さない。
 だけど、今のあたしはただの女。
 
 彼を恋い慕う、ただの女。

 あたしは彼の背中に手を伸ばし、抱き締める。

 彼の鼓動がすぐ傍で聞こえて。
 その音は少し早くて。
 でもこんなにも人の鼓動が心地良いなんて知らなかった。

「……早かったのね」
 沈黙を振り払うように聞いた。クリスマスイブのこの日に定時に上がれたということで。

「うん。みんながね、早く帰してくれたんだ。すみれさんにプレゼントを渡して来いって」
「プレゼント?」
「うん」
「なに?」
「物じゃ……ないんだけど……」
 何だろう?彼の腕の中で少し小首を傾げる。

「……あのさ……」
「うん」
「俺が……すみれさんに会いに行くこと」
「……」
「迷惑……じゃないよね?」
 この状態で聞くか?と思ったが、そんなところも彼らしくて、つい顔が綻ぶ。

「迷惑」
「へ?」
「だと思う?」
「……このムードでそんなこと言うかなあ……」
「……こりゃ失敬」
「まったく……」
 彼が少し笑ったのがわかった。

「ねえ、すみれさん」
「なに?」
「俺言ったよね?直接会って言いたいって」
「……うん」
「言っていい?」
「……そんなこと聞く?」
「一応……許可を取ろうかな、と」
 そんな言い方がいつもの彼らしくて少し安心した。
「……どうぞ」
「言うよ」
「うん……」

 彼が大きく息を吸うのがわかった。

「俺もさ……やっぱり愛してる。すみれさんのこと」
「……うん」
「すみれさんは?」
「……カードに書いたじゃない?」
「直接聞きたいよ」
 頭上から甘く切ない声で囁かれる。
 こんな彼の声音は聞いたことがない。胸の鼓動が大きくなる。
 あまりの羞恥に彼の胸に顔を押し付ける。
 彼の鼓動も大きく高鳴っているのがわかる。

「ねえ……」
 耳元で囁かれた。もうどうにかなってしまいそうで。

 彼の懇願にも似た囁きに、掠れそうな声で応える。

「……愛してる」
「俺のことだよね?仕事じゃないよね?」
 
 あのときのことを言っている。
 あたしが被弾して手術室に運ばれるときに彼に言ったセリフ。

『やっぱり愛してる……仕事』
 
 つい誤魔化した。本音ではあるけれど、もう一つ、愛しているものを誤魔化した。
 何年も隠してきた、あたしの本当の気持ち。
 だけど、今は……。

「……仕事……」
「へ?」
 彼の間の抜けた声音に一つ微笑む。

 そして、あのとき誤魔化したもうひとつの愛してるもの。

「……と……青島くん」
「すみれさん……」

 彼はあたしの名前を呼ぶのと同時にあたしを抱き締める力を強めた。


 end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ


©フォレストページ