お題・英単語

□easy-簡単な-
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「悟飯、ちょっといいだか?」

 夕食後、自室で机に向かっていた悟飯に母は声をかけた。

「お母さん? 何ですか?」

 悟飯が振り返ると母は後ろ手で扉を閉め、口を開いた。

「悟天さ、学校に入れようと思ってんだけんど……」
「悟天を?」

 7歳になるが未だに学校に通っていない弟。悟飯自身も学校へ通い出したのはつい最近の話ではあるのだが、悟飯は通信教育で今まで勉強しており、元より勉強好きもあってか成績は今の学校でもトップだ。

「でもこの辺に学校なんかありましたっけ?」

 過疎とも言えるこのパオズ山に子供はこの孫家くらいしかいない。あとは老人くらいなものだった。
 それ以前に住人など数えるくらいしかいないのだが。
 
 なので悟飯も近くに学校がなく、塾や自宅での通信教育を受けてきた。

「それが麓の町さデッカくなったべ? それで若い人も増えて、丁度悟天くらいの子供も結構いるそうなんだべ。だから来年から学校さ出来るんだって役所から連絡が来てな」
「そうだったんですか。でも悟天が素直に行くって思えないな……」

 弟の方は兄とは違い、誰に似たのか勉強よりも武術を好む。
 なので最近生き返ったばかりの父と一緒に修行に出るのが嬉しくて、母が少しは勉強させようとしても上手く逃げられる。

 ただでさえ7年も離れていた父と一緒にいたいのだ。そんな弟に学校へ通わせるのはきっと容易なことではないだろう。

「だべ?だからいい方法がねえかと思ってな……」

 さすがの母も頭を抱えているらしい。大体のことは自力で何とかする母ではあるが、今回の場合、どうしたらいいのかわからないらしい。

「お父さんには言ったの?お父さんは何て言ってるの?」
「悟空さには夕べ言っただよ。でもな、『アイツの好きにさせりゃあいいじゃねえか?』って……」
「お父さんらしいなぁ」

 悟飯はそんな父の口調までも想像できて苦笑した。
 その後母に叱られたであろうことも何となく想像できた。

「好きにさせりゃあいいって、そういうことじゃねえんだべ……ホント、無責任な親だべ……」
 母はそう言って嘆息した。

「とりあえず悟天に言ってみるだよ。多分嫌がるだろうけどな」
 二人は目を見合わせて更に深い溜息を吐いた。



 次の日の夕食のとき、母は弟に学校へ行かないかと切り出すと、返答は意外なものだった。

「うん。いく」
「え?行くだが?」
「うん」

 父と同じ顔でご飯をかき込む弟の顔を悟飯と母は呆然と眺める。

「だって学校だべ?お勉強するところだぞ?」
「うん。わかってるよ」
「じゃあなんで……?」
 
 はっきり言って兄とは違い勉強は好きではない悟天だ。その悟天が勉強するところだとわかって自ら学校へ行くと言っているのだ。
 母は思わず訝しむ。

「きゅうしょくあるんでしょ?」
「給食?」
「うん。トランクスくんに聞いたんだ。学校にはきゅうしょくがあるって」
「……それでか……」
 
 思いがけない悟天の発言。しかしそれは想像してなかっただけで母にも悟飯にも十分合点のいく答えだった。

「なあ?きゅうしょくって何だ?」
「学校で食べるお昼ご飯のことですよ」
 学校などというところへ行ったことのない父が聞いてきたので悟飯は答えた。
「そんなんあんのかっ!? オラも行きてえぞっ!!」
「でしょ?」
 目を瞠ってそう言う父の言葉に悟天も同意する。

「悟天そんなん食べれんのかあ、よかったなあ」
「うんっ!!」
 父は自分と同じ悟天のツンツン頭を撫でると、悟天は満面の笑みを浮かべて元気な返事をした。

「ぼくもきゅうしょく食べれるんだよ!! トランクスくんに聞いてずっと食べたかったんだよ。うれしいなあ!!」

 ニコニコと嬉しそうにそう言う悟天を、母と兄は呆然と見る。

 父はそんな悟天に「いいなあ〜父ちゃんも食いてえなあ〜!!」などと言う始末。

 これで悟天(と父)の頭の中はまだ見ぬ給食という食べ物のことで頭がいっぱい。

 意外にも簡単に済んだ説得に多少なりと脱力をするものの、それでも悟天が学校に行くと言うのだから万々歳といったところか。

 ということで、あまりにもあっさりと悟天の学校行きが決まった。

 しかし……。

 次の春から学校へ通うことになった悟天だったが……。

「おかあさん……きゅうしょくはおいしいんだけどね……」

 何だかもじもじとしながら悟天は口を開いた。

「あのね……足りないの……」
「へ?」
「きゅうしょく、足りないの。すぐにお腹へっちゃうの」

 そうだった……。

 チチもサイヤ人の男供の世話をし続けて20年近くになるのにすっかり忘れていた。

 常人の食事の量では足りないのだ。

 足元で少し悲しげな表情でこちらを見上げる悟天を呆然と見下ろす。

「はあ……」

 チチは担任教師に事情を説明し(この時点で悟天が給食の量に満足していないことには担任教師も気付いていた)、給食とは別に弁当を持たせる許可を得た。

 それから給食と母の特製弁当の両方を食べられることになった悟天は、意気揚々と学校に通うのだった。


 end

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