お題・英単語

□satisfy-満たす-
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「おにいちゃんだあれ?」

 何となく、気まぐれに立ち寄ったそこにいた一人の少女。

 少女というには大分幼い。幼女というべきか。せいぜい2、3歳といったところだろうか。

 自分の片割れと同じ金色の髪をするその幼女は、何だかこの孤島の家に住むあの男の面影を感じさせた。


「ねえ?」

 呆然としていた自分に幼女は再び声をかけてきた。

「あ、ああ。ただの通りすがりだ。お前は?」
「マーロン」
「ここの家の子供か?」
「うん。おとうさんとおかあさんとおじいちゃんとウミガメとすんでるの」

 満面の笑みで答えるその幼女。やはりあの男に似ている。

 あの男の、子なのか?

「マーロン?どうしたんだい?」
「おかあさんっ!!」

 家の中から女の声がした。その声は聞き覚えがあった。聞き覚えなんてものではない。この耳にしっかりと焼きついている声。

「じゅ、17号……」

 自分の姿を見つけるなり、驚愕とも言える表情を浮かべるその顔は懐かしい顔だった。

 それは、自分の片割れ。

「……久しぶりだな」
「……ここで何してんだい?」

 低くそう言う声には少し警戒と困惑の色が見えた。

「別に何もしちゃいないさ。ただ通りかかったから、この家のヤツの顔でも見てやろうかなって思っただけさ」
「……」

 まだ警戒しているらしい。片割れは幼女を抱き上げると抱き締めた。

「なあ18号。そのちっこいの、お前の子?」
「……そうだ」
「んでもってアイツの子?」
「ああ」

 自分が言うところの『アイツ』とは自分が狙っていた孫悟空の仲間。この家に住むチビのオッサン。

 確かに最初は驚いたが何だか不思議だが妙に納得も出来た。この髪の色など片割れと同じだ。

「じゃあ俺の姪っ子?」
「……そう……なるな」
「ふうん」

 興味がないような態度をしたが、実のところ何だか不思議な気持ちだった。自分たちはこんな身体にされて何かを破壊することは出来たが生み出すことなどないと思っていた。しかし、この片割れは子供というものを生み出していた。

 それは自分にとっても血の繋がりのあるものだった。

「このおにいちゃん、しってるひと?」

 姪だというその幼女は自分を指差して片割れに訊ねた。

「……ああ……マーロンの……おじさんだ」
「おじさん?」

 姪っ子はその目を大きく見開いてこちらを見てきた。

「ああ」
「へえ。ベジータおじさんみたいなかんじ?」
 母の返答に幼女は母の方を見上げて重ねて聞いた。

「違うよ。母さんの……弟だ」
「おとうとってきょうだい?ごはんおにいちゃんとごてんくんみたいなの?」
「ああ」

 母娘の会話にハッとした。

「悟飯?孫悟飯か?アイツに兄弟がいたのか?」
「……ああ。孫悟空が死んでから……生まれたんだ」
「……そうか……」

 確かに自分たち姉弟はドクター・ゲロによって孫悟空の抹殺を命じられた。しかし、一番憎いのはドクター・ゲロだ。今思えば孫悟空に私恨などない。

 ましてやその息子である孫悟飯や孫悟空の妻になど一切の恨みもない。

 孫悟空亡き今、あの家族はどうしているかと思ったこともなくもない。だけど、あの家に近付くことはなかった。

 今日、ここへ立ち寄ったのもほんの気まぐれからだ。

 自分たちに取り付けられていた爆弾を取り除く願いをしたというあの男の顔を見てやろうと思っただけだった。

 そこで片割れと思いがけない再会を果たした。

「……お前さ」

 ふいに聞いてみたいことが頭に過ぎった。思い切って聞いてみようと思った。

「幸せ?」
「え?」
「幸せかって聞いてんだよ」
「……ああ」

 柔らかく微笑むその顔は、自分と一緒に破壊の限りを尽くしていた頃の顔ではなかった。

 あのときは生き生きとしてはいたが幸せそうではなかった。実際、こんな身体にされて幸せであるはずもなかった。

 自分はともかく、こいつは女なのだから。

「そっか……」

 何だか安心した。置いてけぼりを食らったような気もしたが、それ以上に安心した。

 破壊しかなかった自分たち姉弟だった。だけどあいつは、こうして女としての幸せを手に入れている。

 妻として、母として。

「じゃあ……もう行くな」
「……え?」

 片割れは何か言いたげだったが何も言わなかった。

 するとズボンを引っ張られる感触に足元を見る。

「もういっちゃうの?」

 姪っ子がその小さな手で自分のズボンを引っ張りこちらを見上げていた。

「ねえ、こんどいつくる?」

 こちらを見上げてくるその無垢な瞳に、あの男を見た。

「さあな」

 そう言うと、姪っ子の顔が曇った。

「……でもいつか……また来るさ」

 その途端に満面の笑みになった。

「バイバイ、おじちゃん」
「おじちゃん言うな」

 一睨みするも、姪っ子は全くと言っていいほど堪えていないようで、満面の笑みを浮かべたままこちらを見上げている。

 やはりあの男に似ていると思った。

 地を蹴り飛び上がると、幼い声が聞こえてきた。

「バイバーイッ!! またきてねーっ!!」

 こちらを見上げ、小さな手を一生懸命に振っている姪っ子。
 振っていないもう一方の手を、母親である片割れは握り、こちらを見上げている。

 そして、自分が見下ろしているのに気が付くと、小さく手を振ってきた。

 その顔には先程幸せだと言ったときと同じ笑み。

 それを確認すると、自分は全速力でその孤島の小さな家から離れた。

 ほんの一時、本当に僅かな時間だった。

 だけど、何だか満たされたような気がした。

 
 いつか、またあの家を訪れてみよう。

 自分が持っていないものを手に入れた片割れと、彼女の大事な宝物に会いに―。


 end

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