雨の日の唄

□雨の日の唄1〜30
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雨の日の唄19


「ピッコロさん、何を見ているんですか?」

 天界の縁から地上を見下ろす自分に、自分とよく似た容貌を持つ、この地球の若き神が声をかけてきた。

「今日は至る所で雨が降っているなと思ってな。」
「そうですね。今日はいろんな所で雨ですね。」

 神は自分の言葉に同意してきた。

「でも今日の雨はとても優しい雨ですね。嵐のような雨は無いです。」

「…そうだな…。」

 今、地上に振っている雨はとても穏やかだ。嵐のような荒々しさを持った雨は、今は全く降っていない。

 しとしとと降り続く雨音はまるで子守唄のような錯覚さえ覚える。


「これは“恵みの雨”。」

「“恵みの雨”?」

 不意に口を開いた神の付き人の言葉を反芻する。

「日照りの続いたあとで降る雨、“恵みの雨”言う。地球、平和になった証。」

「…そうかも…知れませんね。」


 この間までの地球は絶滅の危機に瀕していた、いや、地球崩壊の危機だった。

 その危機も生き返った男の手によって救われた。

 そしてその男は、再び家族と共に生きる事を許された。


「…“雨降って地固まる”…かもな…。」
 

 あの男とその妻は、幾度の別離を乗り越え、より絆を強めた。

 異星から来た元侵略者も、数々の試練を乗り越え、家族の温かさを知った。

 敵に恋をした地球の戦士も、そのかつての敵に慈悲深く接し、そしてその想いを通じ合わせた。


「本当にそうですね…。」

 神も自分の言わんとせん事を察したらしい。

 
 そして、自分の弟子を思う。

 弟子の隣には誰がいる?

 弟子が初めて恋をした、どこか彼の母親にも似た少女が、彼を支えてくれる事を願う。


 この雨が、幼き頃より苦労を重ねた彼にとっての恵みの雨になるように。


 隣にいる神もその付き人も、きっと同じ気持ちだろう。

 自分達はいつまでも地上と、降り続く雨を眺めていた。


 end
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