雨の日の唄

□雨の日の唄31〜60
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雨の日の唄40


「それにしても、おじさんも悟飯君も大猿になっちゃうなんて、おばさん大変よね?」

 ビーデルさんはちょっと茶化したように言った。

 これも暗くなってしまったこの場の雰囲気を変えようとしての彼女の優しさだった。

「いいえ、僕もお父さんもお母さんの前では変身した事ないですから。二人が出会ったのはお父さんにまだ尻尾があった頃ですけど、その頃もお母さんの前で変身した事ないみたいでしたし。」

 僕もちょっと苦笑して言った。

「そうなの?じゃあ知らないの?」
「知ってますよ。でも、それを知ったのは僕の尻尾が無くなった後ですから。…でも…。」
「でも?」

「お母さん、『別に今ねえんだからいいでねえか。それに悟空さに悟空さの子だべ?不思議な事がもう一つや二つ増えたって何て事ねえべ。』って。」

 その時の、胸を張って大した事では無いという風に言うお母さんの姿を思い出して、僕はさらに苦笑した。

「おばさん…強いわね…。」

 ビーデルさんはその事が一番驚いたという感じだった。

「それにね」
「うん?」

「お母さん、僕が生まれた時、尻尾がある事が一番嬉しかったって。」
「そうなの?」

 ビーデルさんは不思議そうな顔で見つめてくる。

「普通はね、尻尾なんか生えて欲しくないでしょ?でもお母さん、お父さんの子だから尻尾があってもおかしくない。逆に尻尾を見るたびに自分よりお父さんの血を濃く引く子だって嬉しかったって。お父さんも尻尾がある事で自分の子だってすぐに実感できたらしいですから。」

 男というのは自分の子とわかってはいても、それを実感するのに時間がかかるらしい。(牛魔王おじいちゃん談)
 でもお父さんの場合、尻尾のお陰ですぐに実感できたと言っていた。

「へえ…。何かいいなぁ…。」

 ビーデルさんは微笑んでいる。

「悟天にもあったんですけど、生まれてすぐに切っちゃったんですよ。危険なのは知ってましたからね。」
「勿体無いわね。」
「へ?」

 ビーデルさんの発言に僕は驚きのあまり間抜けな声を出した。

「だって悟天君に尻尾よ!!すっごくかわいいじゃない!!」

 ビーデルさんは握り拳を作って言った。

「きっと小さい頃の悟飯君もかわいかっただろうなぁ…。尻尾があるんでしょ?絶対かわいいわよ!!」
「…はあ…。」

「そうだ!!今度おばさんに悟飯君の子供の頃の写真見せて貰おう!!」

 嬉々としてビーデルさんは叫んだ。

「え!?そ、それはっ!!」
「いいじゃないのよ。」

 彼女はふて腐れ気味に言う。

 その顔に弱いんだけど…。

「楽しみが出来たわ!!」

 そう微笑むビーデルさんに、僕は一生勝てないと思った。

 
 end
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