雨の日の唄

□雨の日の唄31〜60
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雨の日の唄41


「…でもおじさん、おじいさんを殺してしまった時、すごく辛かったでしょうね…。」

 ビーデルさんはふいに口を開いた。

「…そうですね…本人もその事、自分がサイヤ人で大猿の正体が自分だと知るまで知らなかったそうですから。」
「…そう…知らない方がよかったのかもね…。」

 ビーデルさんは少し悲しそうな顔をした。

「…そうでも…ないみたいですよ…。」
「そうなの?」

 大きな目をさらに大きくして、ビーデルさんは僕の顔を見た。

「ええ。ある満月の夜、言ったんです。」

 僕はその時の話をした。


『オラさ、じっちゃんを殺しちまった事を知らずにいた方がよかったんかな?って思った事もあったけどよ…。』

 お父さんと僕とピッコロさんが一緒に修行している頃の話だ。

 お父さんがピッコロさんに話しているのを聞いた。

『でも、それを知れたって事は、これから万が一、悟飯の時みたいにシッポが生えちまったとしても気を付けられるだろ?今のオラなら大猿くれえ倒せるって満月の夜に飛び出しちまってたからな。』

 超サイヤ人にすでになれていた。何も知らずにいたとしたら、それもあり得ただろう。

 そして、

『それは、チチを…殺さずに済んだって事だ…。…万が一…考えたくもねえけど…もし…アイツを殺しちまったら…オラ…気が狂っちまう…。そんで…自分で自分を殺すだろうな…。』

 いつものお父さんとは思えないくらい、真剣な目で言った。

 その時のお父さんの目が、お母さんをこの世で一番大切な存在だと、そう物語っているように思えた。



「…そう…そんな事が…。」

 ビーデルさんは静かに言った。

「羨ましいわね。」
「そうですね…。」

 自分の両親の事だけど、僕は心底羨ましいと思った。

 お父さんとお母さんは傍から見るとそれほど仲のいい夫婦に見えないかも知れない。

 お父さんはいつもお母さんを怒らせているし、お母さんはいつもお父さんを怒っている。

 でもあの二人は僕達や他人のわからないところで、とてもお互いを思いやっている。見えない、強い絆で繋がっている。

 あの二人ほど固く結ばれた夫婦はいないんじゃないかって思うくらい、どんなに離れ離れになっても、お父さんはどんな奇跡を起こしてでもお母さんの元へと帰って来る。

「そんな人に出会えるなんて、奇跡よね…。」
「…そうなんですかね…。」

 僕はお父さんとお母さんの出会いは奇跡ではなく必然だったと思っている。

 僕も…僕にとってもビーデルさんがその人であって欲しいと思う。

 そう思うのだが、それを言葉に出来そうになかった…。


 僕は自分の不甲斐なさに、今日数十回は吐いているだろう溜息をまた吐いた。


 end
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