雨の日の唄

□雨の日の唄31〜60
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雨の日の唄58


 テントを出ると悟飯君が伸びをしていた。

 悟飯君に声をかけようと思って近付こうとする。

 その時かすかにだけど、悟飯君がボソッと呟いた言葉が聞こえた。

「あと…1日か…。」

 そして溜息を吐いた。

(え?)

 何か…今のって…?

 もしかして…楽しくないの?

 しばらくの時間、呆然としていたように思う。

 でも、私はその足を動かした。


 すると悟飯君が振り向いた。

 少し居心地が悪そうに眉尻を下げて、その口元は笑ってるんだけど何となく引きつっているように見えた。

「おはようございます。」

 そう言う悟飯君に私は返す。

「おはよう悟飯君、よく眠れた?」

「え、ええ、まあ…」

 眠れたの?私はドキドキして眠れなかったのに?

「…そう…。」

 何か悔しい・・・。

「ビーデルさんはよく眠れましたか?」
「ええとっても!!」

 何て事ないと言った感じで聞いてくる悟飯君に、私は間髪入れずに言った。

 …あ…ちょっときつく言い過ぎたかしら…。

「私、朝食の用意があるから行くわ。」

 気まずさもあって早々にこの場を後にしようとしたら、

「あ、僕も何か手伝います。大飯食らいばっかりだから大変だし。」
「結構よっ!!」

 私一人じゃあなた達の食事も満足に作れないって思ってるんでしょ?
 どうせ私はおばさんとは違うものっ!!
 おばさんみたいに完璧じゃないわよっ!!

 どうせ夕べのカレーは材料を切って入れて煮込むだけだったしねっ!!

 踵を返して立ち去ろうとした時、悟飯君の「へ?」と言う少し呆気に取られた声が聞こえた。


 気遣ってくれたのはわかるけど、それが逆に悔しくなった。

 八つ当たりなのはわかってるけど、私一人がドキドキしてるんだと思ったら、どうしようもなく悔しくなった。

 それに、あんなに完璧なお母さんがいるんだから私なんて…って思ったら…何だか妙に不甲斐なくなって、悟飯君に顔を見られるのが辛くなった。

 私は振り返りもせず、悟飯君から離れていった。


 end
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