雨の日の唄

□雨の日の唄31〜60
6ページ/31ページ

雨の日の唄35


「…雨…まだ降ってるわね…。」
「…ああ…。」

 腕の中の妻は窓の外を見ながら呟いた。

「明日…せっかくベジータにお買い物付き合って貰おうと思ったのに…。」

 そう口を尖らせる。

 その仕草はいつまでも若々しく、自分の好きな仕草であるなどと、思っていても絶対に口には出せない。

「…俺は行かん。」
「何で?」

 妻は自分の顔を覗き込む。

 あまりに無防備なところを覗き込まれたので、少し焦って顔を背けつつ答えた。

「貴様の買い物とやらは、やたらと時間がかかって敵わん。」
「いいじゃないのよ。」

 少し不貞腐れ気味に言う。

「それに荷物も多い。」
「あの程度の荷物、何とも無いでしょ?」
「そういう問題じゃない。」
「何でよ?」

 ああ言えばこう言う。まるで堂々巡りだ。

「とにかく俺は行かんからな。」

 完全にそっぽを向いてやった。

「…つまんないの…せっかくベジータと二人っきりでデートが出来ると思ったのに…。」

 背後から寂しげな声が聞こえた。

「だってさ、最近アンタ全然お買い物付き合ってくれないじゃない。トランクスばっかりに荷物持ちさせてさ。家族三人って時も少ないし…。それにせっかく二人っきりなんだから、デートがしたかったのよ。二人で町を歩きたかったのよ…。」

 恐る恐る振り返る。妻が泣いているんじゃないかと思った。

 …しかし…。

「せっかくの二人っきりだもんね!!逆に町に出るよりここで二人っきりの方がいいわね。別に二人っきりで町になんていつでも行けるし。トランクスったらそのへんやたらと気が利くし。」

 目をキラキラさせて言った。

「明日はトレーニング禁止ね!!」

 嬉々とした妻の言葉に、自分は何も言えなかった。


 end
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ