雨の日の唄
□雨の日の唄31〜60
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雨の日の唄35
「…雨…まだ降ってるわね…。」
「…ああ…。」
腕の中の妻は窓の外を見ながら呟いた。
「明日…せっかくベジータにお買い物付き合って貰おうと思ったのに…。」
そう口を尖らせる。
その仕草はいつまでも若々しく、自分の好きな仕草であるなどと、思っていても絶対に口には出せない。
「…俺は行かん。」
「何で?」
妻は自分の顔を覗き込む。
あまりに無防備なところを覗き込まれたので、少し焦って顔を背けつつ答えた。
「貴様の買い物とやらは、やたらと時間がかかって敵わん。」
「いいじゃないのよ。」
少し不貞腐れ気味に言う。
「それに荷物も多い。」
「あの程度の荷物、何とも無いでしょ?」
「そういう問題じゃない。」
「何でよ?」
ああ言えばこう言う。まるで堂々巡りだ。
「とにかく俺は行かんからな。」
完全にそっぽを向いてやった。
「…つまんないの…せっかくベジータと二人っきりでデートが出来ると思ったのに…。」
背後から寂しげな声が聞こえた。
「だってさ、最近アンタ全然お買い物付き合ってくれないじゃない。トランクスばっかりに荷物持ちさせてさ。家族三人って時も少ないし…。それにせっかく二人っきりなんだから、デートがしたかったのよ。二人で町を歩きたかったのよ…。」
恐る恐る振り返る。妻が泣いているんじゃないかと思った。
…しかし…。
「せっかくの二人っきりだもんね!!逆に町に出るよりここで二人っきりの方がいいわね。別に二人っきりで町になんていつでも行けるし。トランクスったらそのへんやたらと気が利くし。」
目をキラキラさせて言った。
「明日はトレーニング禁止ね!!」
嬉々とした妻の言葉に、自分は何も言えなかった。
end