雨の日の唄
□雨の日の唄61〜90
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雨の日の唄65
「ベジータッ!!」
「何だっ貴様っ!?」
妻に言われるままリビングでくつろいでいるとカカロットが瞬間移動で突然現れた。
「ベジータッ!!オラ何か変なんだっ!!」
「貴様が変なのは今に始まった事ではないわっ!!」
いきなり現れて何を言い出すかと思えば…そんな今更わかりきった事を。
「冷てえ事言うなって。オラとオメエの仲じゃねえか?オラの悩みくれえ聞いてくれよ」
「貴様とオレがどんな仲だと言うのだっ……悩み?」
ライバルの悩みと聞いて反応してしまった。別にそれを逆手にとるほど落ちぶれてなどいないが何となく…だ。
「……おう……何か変なんだ……その……」
だから貴様が変な事くらい知っている。……と言いたかったが、それを言うと暫く進みそうになさそうな気がした。
「何だ?聞いてやるから言ってみろ」
カカロットの悩みなどどうせ取るに足らないものだろう。
「オラさ……」
かなり歯切れが悪い。ゆっくりくつろいでいるところを邪魔されたのだ。だんだんイライラしてきた。
「早く言わんかっ鬱陶しいっ!!」
「オラッチチを見てっとドキドキすんだよっ!!」
「は?」
……自分の妻を見てドキドキする……?
「……何だ……?それは……」
「……チチ見てっとさ、何かドキドキしてよ…顔が熱くなってさ……チチの顔が見れなくなんだ……何かさ、新婚の時みてえだ……」
コイツら夫婦は確か結婚して20年近くなるはずだが……?
「……何を今更……」
「だろっ!?何かワケわかんねえよ……せっかくチチと二人っきりなのによ、ドキドキして家にいられねえよ……」
そう俯いて顔を真っ赤にさせているカカロットが……正直……気持ち悪かった……。
「恋ね!!」
そこへ突然妻の声が降ってきた。
「やっぱそうなんか?」
「そうよ。結婚して何年にもなるのに、同じ相手に恋をするなんて…素晴らしいじゃない!!というか孫君、恋って自覚はあるワケね?」
「ま、まあよ……一応……」
照れて俯きながら目だけ上げて言うカカロットが本当に気持ち悪いっ!!
「せっかくふたりっきりなんじゃない。そのまんまの気持ちをチチさんに言ってあげなさいよ。そしたらまた新婚の頃のようにラブラブな時間が過ごせるわよ?」
「それホントかっ!?」
急に顔を上げ、目をキラキラさせてるカカロットが異常に気持ち悪かった。
多分今ここにニョロニョロしたものが現れてもカカロットの方が気持ち悪いかも知れない。
「そうよう。ほらほら、新婚時代に戻れるわよ。早く帰らなきゃ。チチさんも待ってるわよ」
「じゃあオラ帰ぇるなっ!!」
嬉々として瞬間移動で帰って行った。
呆気にとられている自分と違い、妻はうんうんと頷いている。
「いいわねえ……また恋だなんて。チチさんが羨ましいわ」
チラッとこちらを見て含んだような笑いをしてきた。
「……」
何が言いたいかは大体わかるが、無言を決め込む。
「邪魔者はいなくなったのになぁ?誰のお陰かしら?」
そう言って腕を絡ませてくる。
この女には勝てない……。
この妻と一緒になってから何度そう思っただろう?
負けるのが嫌いな自分がそれでもいいと思うのだから、本当に夫婦とは不思議なものだ、そう思い嘆息した。
end