雨の日の唄

□雨の日の唄91〜120
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雨の日の唄113


 ビーデルさんと二人、楽しそうに水をかけ合って遊ぶ悟天とトランクスを眺める。

 ただ無言で、ぼんやりと眺めているだけでも、この空気は心地よいものだった。

「悟天君とトランクス君、本当に楽しそうよね」

 ふいにビーデルさんが問いかけてきた。

「そうですね」
 つい微笑んでしまう。

「悟飯君、何だか嬉しそうね?」
「そうですか?」

 僕の顔を覗き込んでくるビーデルさんに少し顔が熱くなる思いだったけど、それ誤魔化すように口を開く。

「……そうですね。やっぱり嬉しいです」
「どうして?」
「僕、ずっとパオズ山で育って、まわりに子供もいなかったから友達らしい友達っていなかったんですよ」
「……そうだったの……」

 初めてカメハウスに行った日、クリリンさんたちに出会った。

 それからお父さんが殺され、僕は荒野に取り残され、守られてばかりだった生活が一変した。
 
 でもあのとき、いろんなことがあった。それまで引っ込み思案で泣き虫だった自分が変われたと思った。

 ピッコロさんを救う為にナメック星に自ら行く決心をしたし、そのお陰でお母さんに反抗することになってしまった。お母さんの気持ちももっと考えればよかった……なんて今更ながらに思うけど、後悔はしていない。

「でもデンデにも出会ってちゃんと友達は出来ました」
「デンデって、地球の神様よね?」
「そうです。あのセルとの戦いの前に、ピッコロさんと同化していなくなった地球の神様の変わりにお父さんが連れて来たんです」

 ナメック星で出会ったデンデは僕の初めての同年代の友達だった。ずっと大人の間で育ってきたから、デンデの存在は大きかった。
 
 だからデンデが地球の神様になったときは本当に嬉しかった。

 セルゲームの前、ずっと天界にいることをお父さんに許して貰って、その間一緒に勉強をしたり遊んだり。クリリンさんも一緒でとにかく楽しかった。

「僕、それまで友達がいなかったから本当に嬉しくて」
「……寂しかったでしょ?」

 ビーデルさんはまるで自分のことのように顔を曇らせている。

「……寂しくなかったと言えば嘘になるかな……だからこそ悟天には本当の友達を持って欲しかった」

 生まれたときには既にお父さんがいなかった。
 それだけでも不憫なことなのに、友達までいないとなれば、いくら兄の僕であってもどこまで補ってやれたかわからない。
 父親代わりだって出来ていなかっただろうに……。

「だからトランクスがいてくれてよかった」
「そうよね……」
 
 いろんな意味でトランクスには救われているかも知れない。
 
 少し困ったところのあるトランクスだけど、悟天のことを本当に大事だと思ってくれていることもわかるし、何より僕たち家族ではわからないようなことをトランクスは親友の目線で理解してくれている。

「ねえ悟飯君。今は寂しくない?」
「え?」

 ビーデルさんの目は限りなく優しかった。

「友達たくさん出来て、もう寂しくない?」

 僕は目を瞠った。

「……はい。ビーデルさんたちがいてくれるから……全然寂しくないです」
「よかった」

 ビーデルさんはホッとしたような顔をした。

 この人は本当に心のキレイな人だ。僕のことも自分のことのように……。

 この人のこと、本当に好きだ。

 心の底からそう思った。


 end
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