雨の日の唄

□雨の日の唄121〜
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雨の日の唄121


 ふと、トランクスの隣に寝ている悟天君に目を移す。

「ホント、孫君そっくりよねえ」

 溜息が出るほど彼の父親に似ている。

 孫君がこの世を去ってから生まれた子。

 この子が生まれて間もなくして仲間皆で見舞ったとき、その場にいた人たちは息を飲んだ。

 あまりにも死んだこの子の父親に似ていて、いや、瓜二つとも言える容姿に、生まれ変わりではないかと思った。

『……悟空……』

 皆が口々にそう言った。

 無理矢理引っ張ってきたベジータも、あまりにも似ているその容姿に目を見開いて絶句していた。

 そして微かに聞こえた『……カカロット……』という呟き。

 皆がそう感じている中、チチさんは言った。

『よく似てるだろ?悟空さに。でもな、この子は悟空さの生まれ変わりでねえ。悟空さとおらの子だ』

 意志の強そうな、それでいて自愛に満ちた瞳。彼女はキッパリと言い切った。

 ドキッとした。そうだ。この子は他の誰でもない、孫君とチチさんの子。孫君の生まれ変わりなんかじゃない。

 その場にいた皆はハッとしたような顔になり、

『そ、そうだよな。悟飯も悟空にそっくりだけど、この子は更に似てるってことだよな』

 とヤムチャが言えば、

『ホントですよね!! まるで悟空の子供の頃を見てるくらいそっくりだ。あ、でも、この子の方が上品な感じですよね』

 クリリンがそう言う。その途端、皆が笑い出した。

『だべ?おらの血が混ざってるからな』

 その言葉に更に大笑いになって、看護士さんに咎められた。

『悟飯、お主ももう兄じゃな。悟空の分も、お主が母も弟も守ってやらねばな』
『はい!!』

 亀仙人の言葉に、悟飯君はしっかりと、強い意志を持った目で返事した。

『それにしても悟空のヤツ、ちゃっかりしてるよなぁ』
『ホントですよ。いいなあ、子供かぁ……』

 心底羨ましそうにそう呟いたクリリンに悟飯君が言った。

『クリリンさん、お嫁さんの方が先じゃないの?』
『うるさいよっ!!』

 涙目のクリリンに更に爆笑が起き、

『うるさいって言ってるでしょっ!!』

 と再度看護士さんに怒られた。

 皆(ベジータ以外)が笑いを堪える中、ふとベジータが口を開いた。

『名は?』
『え?』
『名は何と言うのだ?』

 皆が思わずベジータに注目すると、ベジータは『フン』とそっぽを向いた。

 するとチチさんは微笑み、

『悟天だべ。孫悟天。『天を悟る』で悟天。悟空さの『空』よりも大きな『天』』

 そう言って悟天君の頭を撫でた。

『悟天か……よい名じゃな』

 亀仙人の言葉にチチさんは綺麗に微笑んで頷いた。

『よろしくな、悟天』
 ヤムチャは悟天君の頬を突付き、

『悟天も悟空みたいにさっさと結婚しちまうのかなあ……』
『クリリンさん、悟天より先に結婚しなきゃ』
『またお前はっ!!』

 クリリンと悟飯君のやり取りにまたも爆笑しそうになるも、あの看護士が怖くて皆慌てて口を噤んだ。


 ついあのときのことを思い出した。

 初めてこの子と対面したとき、スヤスヤと眠るこの子は孫君の子に間違いないと思うほどで。

 でも今見る悟天君も、孫君の少年時代を思わせる容姿なのに。

 やはり、寝顔は悟飯君同様チチさんに似ているのだ。

 大口開けて、大の字になって寝ていた孫君とは違って、この子はまだ親指を咥えていて、寝息も小さい。
 
 やはり彼の母親の言う通り、母親の血の成せる業か?


 かわいいと思う。

 自分の弟のような男と、親友と言っていい女の子供。

 幼い頃から背負わなくてもいい苦労ばかり背負ってきたこの子の兄も、本当にかわいいのだ。

 この子達の成長を見てきた。この子たちの父親の成長も。

 感慨深い。時々、この一家に降りかかる災難を思って心を痛めることもあった。

 しかし今はこの家族にも幸せが訪れた。孫君とチチさんが結婚して5年の間、誰とも連絡を取らずに生活していた頃と同じような幸せが。

 悟天君の頬も、トランクスの頬と同じように突付く。

「幸せになんなさいよ」

 そう言うと、この孫君のミニチュアのような子は、嬉しそうに笑った気がした。


 end
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