雨の日の唄
□雨の日の唄121〜
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雨の日の唄125
『本当に欲しい大事なものってね、怖がって躊躇してると手に入らないものなのよ。あなたのお母さんだって、真っ直ぐにあなたのお父さんにぶつかっていったの』
ブルマさんの言葉が妙に響いた。
僕は怖がっている。夕べ、ビーデルさんに僕たち家族のことを話した。ビーデルさんは受け入れてくれたように見えたけど、本当は怖がっているかも知れないと。
ふいにそんな考えが浮かんで頭を振る。
彼女が僕たち家族のことを受け入れてくれて、そして笑ってくれたけれど、それは心底そう思ってくれているのだろうか?
そんな疑惑が浮かんでは消え、消えては浮かぶ。
こんなことではいけないと思う。それはわかっている。
ブルマさんの言葉に僕は彼女に気持ちを打ち明けることを決心して頷いて見せたくせに、すぐに思考がマイナスに向かってしまった。
情けない。
どうにもビーデルさんのことに関しては勝手が違うというか、こういうことに関して慣れていないからどうすればいいかわからないのも事実だ。
本当ははっきりと『好きだ』と言うべきなんだろうけれど、どうにもまだその勇気が出ない。
正直なところ彼女が本当に僕を受け入れてくれるか自信がないのだ。
僕が普通ではないから、一緒にいるとまた恐ろしい目に遭ってしまうとか、そんなことを思わせたかも知れない。
ビーデルさんは優しいからそんな風に思っていてもおくびにも出さないだけで。
……僕のことを話すには、まだ早すぎたんじゃないだろうか……?
魔人ブウの一件を通じて、僕はビーデルさんを近くに感じてしまっただけなのだろうか?
ビーデルさんはそんなことないのに、僕だけが一方的に?
グレートサイヤマンに関しても、実は迷惑してるとか?
……いやダメだ!! 男らしくないぞ孫悟飯!!
そんなことじゃダメだ!! マイナス思考なんか追い払ってしまえ!!
……って、ホント、こういう分野には自信がない。他のことは案外あっさりと考えられるんだけど。
『おめえにもいつか母さんみたいな人が現れる。その時はちゃんとでぇ好きだって言ってやれ。父さんは母さんに言えねえけどな』
ふと、昔お父さんに言われたことを思い出した。
実はお父さん、お母さんのこと大好きなくせに素直にその気持ちを言えなかったってことは知っている。
そのときは『なんで好きなのに「好き」って言えないんだろう?』と思ったが……。
今ならわかります、お父さん……。
こんなところまでお父さんに似てしまったらしい。
情けない。本当に情けない。
数式を解くことの方が何でもないことのように思える。
つまり僕が今ぶつかっている壁のような、口に出すのも照れて憚れるこういう分野には答えがない。したがってそれを解く方法は無限にあり、そして本当の答えは無いようなものだ。
だけど、プロセス次第では答えが変わってくるということでもある。
これから僕がどういう行動を起こすかによってビーデルさんの答えも変わる。
……と言っても自信がない。方法がわからない。
こんなとき、ヤムチャさんとかならすぐに答えを出しちゃうんだろうな。
ああ、ホントにどうしたらいいんだろう……?
でもそれ以前に……。
彼女が僕を恐れているとしたら……?
やはり、その考えは振り払えそうになかった。
end